朱りんふぁのブログ

どんな要素がVRChat向け作品の人気に関係していそうか、統計解析してみた! ~VRChatと経済学②~

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(文責:朱玲華)

(修正:2022年01月03日21時に、誤字・脱字・微細な問題を修正しました。)

 

 

 


お断り

当記事は、経済学生が睡眠時間を削って簡易な統計分析を施したものになります。

そのため、内容に不備・錯誤・不正確性を含まないことを保証しません。*1

 

また、誤りがある場合の責任は全て筆者に帰属するものであり、経済学そのものに帰結するものではありません。

 

 

はじめに

はじめまして、朱りんふぁ*2です。

中華風のハンドルネームだけど、日本人です。

 

突然ですが、VRChat向けの作品って、この世に大体どのくらい存在しているか御存じですか?

 

実は、2021年12月30日時点で、例えばBoothなら約38000点ほど*3存在しています。

 

つい直近にも、そんなVR関連商品に関して例えばhibit様の BOOTH3Dモデル市場概況(2021年) なんて記事が出ていて、アバター市場で販売数や専用衣装の数に、すさまじい偏りがあるよねという内容でした。

 

ところで、皆さん、特にクリエイターの皆さんは、こんなことに興味がありませんか?

 

_人人人人人人人人人人人人人人人_
>どんな要素が人気と関係あるの!<
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

 

滅茶苦茶気になるのではないかと思います。

 

そこで、今回は最近、世間では統計学機械学習の知識を合わせた分野を「データサイエンス」と呼んでもてはやしていると聞いたので、ボクも何かやってみようと思って、テキトーに統計解析を行ってみることにしました。

 

過去の文章は、どれもこれも物議を醸しそうな暗い内容ばかりだったから、初めて皆さんが無条件に喜んでくださりそうな記事が書けて、感無量です

 

すごくざっくり、正確性は置いておいて何となく説明しておくと、なんというか、この手の「データサイエンス」にはいくつか系統があって、特に世間でもてはやされてるのは、いわゆる「予測」を行うための技術です。

 

「こんな要素を使えば予測が出来るんじゃない?」って感じで、要素別に影響度を解析してゆく手法を「教師あり学習」、どっちかというと「これはこっちのグループに入るんじゃないかなぁ」と、似たものをグループ分けする技術を「教師なし学習」と呼んでいます(多分)。

 

よくあるAIとか、生物・医学系分野とかだと、この辺の予測された結果や予測因子を利用しているケースが多い気がします。

 

一方で、経済学とかが行うのはこれとは大分違う分析で、本来は「この要因が恐らくこの現象の原因になっている!」と、因果関係を特定するための技術です。

 

そのため、同じデータサイエンスと呼ばれていても、目的自体がそもそも大分違うことになります。

 

(詳しい人向けに書いておくなら、機械学習ならリッジ回帰とかラッソ回帰、回帰木と決定木とか、情報系ならベイジアンで事後分布による更新とかが。

また、医学系だとステップワイズ法とかが使われているケースが多いイメージがあるんですが(偏見)、この辺の手法は、経済学では何か事情が無い限り使わないです。

 

特に、意味もなくステップワイズ法なんか使おうものなら、たちまち教授から「何がしたいの朱君?」と言われることでしょう。

 

影響が小さかろうが、明らかに統計的に違いをもたらしている場合は因果関係がある可能性があるので、リッジやラッソ、ステップワイズのように、パラメータを大きさや尤度で切り落とすのは論外なのです。

 

また、実験と違って試行回数なんてない、一時的に偶然得られた社会的なデータによる推定が盛んな経済学では、分布が事前に判明してるとか、更新にふさわしい試行回数があるとか、そんな条件がそろわないことも多く、ベイジアンも使われないことが多いです。)

 

そんなこんなで、本当は本稿でも因果関係を何とか推定したかったんですが、一方で、そもそもデータにも様々な制約があることから、非常に残念ながら解析に使えない重要なデータが色々あり、因果関係の特定自体は断念することになりました。

 

そう、例えば販売数です。

 

Boothって、スキ!の数は普通に出てきますけど、販売本数って他人には出て来なくない???

 

ということで、本当は「原因を突き止めて販売個数を増やそう!!!」ってやろうと思ったのですが、残念ながら、代わりにスキ!の数で考えることになりました。

 

また、本当はポリゴン数を書く欄が特定の箇所にあるとか、規約が統一されていて機械で読み込みやすいとか、手作業でもリサーチアシスタント*4に丸投げするとか、そんなことが出来ればもっと高度な推定が出来たと思うんですが…。

 

残念ながら、今回はそんなことも無く、そもそもデータの質自体が良質ではないため、結局は大学院で行うような非常に高度な手法をとることは出来ませんでした*5

 

結果、確かに経済系だと必修になるのは大学院からだけど、学部生でも、そこそこ勉強する大学の真面目な学生さんが、卒論*6のために背伸びしたら普通に使えるような、結構古典的な手法*7をとることになりました。

 

データの質が悪いときは、結局古典的な方法になるんだよね。

ということで、早速見て行きましょう。

 

 

データの内容と記述統計

使用したデータ

そもそも、どんなデータを使ったのかですが、2021年11月24日時点で約36,000点あったBooth上のVRChatに関する作品(検索結果)を、約750ページほどある検索ページから、スクレイピングというコンピューターに自動でWebページを読み込ませる技術で*8名簿にしました。

 

ここで、

  1. 検索した時に出る値段(以下、検索時表示価格)
    (お布施があると、0円が0円で表示されないやつ。)

  2. どのショップが販売しているか

  3. 個々の商品へのリンク

  4. モデルの種類
    (「3DCG・3DCG集」とか、「3Dキャラクター」とか。)

  5. 商品の名前

を得ました。

 

そして、標本理論という理論を使って、値段の平均値とかみたいな特徴がなるべくこの名簿と近く保たれるように、層化無作為抽出法という方法で約2250サンプルを抽出。

 

最後に、得たサンプルに関して、11月26日から12月2日までかけて再び商品の詳細のページをスクレイピングして、今度は

  1. 最大50個目までのタグ
    (それ以上は流石に追わなかった。)

  2. スキ!の数

  3. 個別のページでDLするとき、一番上に書いてある値段
    (以下、正規価格と呼ぶ。本来無料の商品は、ここが0円になるはず。)

  4. 説明文のうち、章立てが分かれてない部分の文章
    (分けられた部分はエラーが派生。)

のデータを得ました。

 

なんでこんな七面倒な手法を取ったのかというと、そもそも「Boothってスクレイピングして良いの?」という疑問があって色々調べたんですが、結果として、一応なるべく自然に近い閲覧スピードで情報を収集しようという方針になったのです。

 

なので、過去の自分の閲覧履歴を調べて「人間は1時間当たり200ページくらい見れるよね」となり、原則、1時間当たり450ページ(15秒に1回)スクレイピングできる、つまり2人ほどが閲覧しているスピードならサーバーに負荷もかからないだろうという感じで、1日当たり2時間までとして調査を行いました。

 

ここまで慎重にならなくても良いんじゃないかとも思ったんですが、Booth様に御迷惑はかけたくなかったので…。

 

スクレイピングに関してBoothの規約を検討した詳細に関しましては、詳しくは「【付論】法律・規約・慣習から見る、Boothとスクレイピング - 朱りんふぁのブログ」に纏めてあるので、細かいことが気になる人はそちらを見てください。

 

データの特徴

さて、データの特徴です。

 

まずは、母集団のデータ。

36,096点の作品を、5651shopが販売しています*9

 

このうち、検索時表示価格が35,000円を超える商品に関しては、どうやら終売のものや、1点ものなどを無理やり高額にした商品が多いらしく、ほとんど普通の商品は存在しなかったので、名簿から省くことにしました。

 

その上で、名簿上の平均価格が766.6円に対し、サンプル上の平均価格は764.1円

無作為抽出で、35,000点ほどの名簿に対し2,250サンプルだと本来誤差が2%くらい出てもおかしくないので、層化してるとは言え、運よく上手にサンプリングできたようです。

 

さらに、有難いことに、四分位数等*10もすべて一致してくれました。神。

最大値だけ18,000円と少し小さくなってしまいましたが、上々な結果です。

 

0円から100円ずつで分布自体も見比べてみると、この通りほぼ一致。

分析にふさわしいサンプルといえることでしょう。

 

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名簿上の検索時表示価格の分布

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サンプル上の検索時表示価格の分布

 

さて、ここからは2248個あるサンプルの特徴です。

 

まずは、種類別にどのくらいの正規価格が使われているか、四分位数が分かる箱ひげ図で見てみましょう。

(箱ひげ図について説明しておくと、それぞれ、箱の左が下から25%の位置の価格、真ん中の某が中央値、箱の右端が下から75%の位置の価格。個別の点は外れ値。)

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箱ひげ図

3Dキャラクターの項目だけ、やたらと中央値や平均値が高くなってますね。

アニメーションも意外とお値段がするんでしょうか。ちょっと意外。


次に、スキ!の数と、正規価格の関係を見てみましょう。

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スキ!の数と正規価格の関係

それぞれの色が、それぞれの商品の種類を表しています。

統計に詳しくない人は、横に引っ張られている棒線は、正規価格が値上がりすると、平均的にどのくらいスキ!の数が増えるかというようなものだと思ってください。

 

分かる人向けに書いておくなら、棒線は単回帰直線を図示しています。

 

右肩上がりですね。

普通に考えれば価格が上がるほど需要は下がりそうなものですが、これはスキ!の数ですし、おそらく良い商品への憧れとか、あるいはデータを持ってこれなかった高品質性とスキ!との関係が、価格を通して出てしまったと考えられます。

 

商品の種類が変わったからって、あんまり傾き自体は変わらないみたいなので、分析の際にこの辺は気にしなくて良いかな…。

というか、めっちゃばらけてますね。

 

けっこう分かる人向けになっちゃいますが、分布と、散布図と、相関係数も主要な指標に対して見ておきましょう。

 

分からない人向けにテキトーに説明しておくなら、相関というのが、片方が大きな値になると、もう片方がどのくらい連動して大きな値になっているか、というのを見ています。

 

それぞれの英字は、

  1. num:商品が最新何番目か
  2. fav:スキ!の数
  3. price2:正規価格
  4. nexp:説明文の長さ
  5. ntag:タグの個数
  6. VRChat:タグ「VRChat」が使われているかどうか

を指しています。

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散布図

何だかんだで、正規価格とスキ!の数には約0.27の相関があるらしいです。

 

また、どのタグがどのくらい利用されているかを見てみましょう。

全部追っていると滅茶苦茶多くなってしまうので、ここでは1%以上のサンプル、つまり23個以上のサンプルで使われているタグのみを抽出しました。

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タグの利用率

なるほどねぇ…。

作品の特質を表しているわけですが、色々ありますね。

 

「FBX」や「UnityPackage」みたいなデータ形式や、「アバター」とか「衣装」とかみたいな商品の種類。「ケモノ」や「ハロウィン」みたいな何向けかの表示。

「かわいい」みたいな超概念的な何か。「新作」とか楽しそう。

 

まぁ、だいたいこんな感じですかね。

 

 

統計解析

何が影響しそうか

さて、大体の特徴が分かったところで、「『スキ!』の数と、どんな要素がどのように関係しそうか」を、考えて行きましょう

 

というのも、「どんな要素がどう関係しそうか」を考えないことには、「仮説→検証」のステップが踏めないので。

 

ということで、「データ上のどういう数値が大きかったら、『スキ!』の数が増えたり減ったりしそうか」に関して仮説を立てていきます

 

具体的には、以下のような感じです。

  1. 値段は、上記でも言ったけど、良い商品への憧れとかデータとして持ってこれなかった高品質性とかが影響して、高くなるほどスキ!が多そう
    つまり、プラスになるはずです。
    (勘違いしないで欲しいのは、因果関係ではないので、値段を上げれば「スキ!」が増えるということにはならないということ。)
    統計学が高度に分かる人向けに言うなら、これは説明変数というよりは制御変数というか、nuisance的なパラメータです。)

  2. 番号に関しては、古い物ほど大きくなり、長い時間が経つほどたくさんの人が見て「スキ!」する数が上がりそうなので、プラスになると思われます。
    (いつ発売されたか表示されないBoothのデータに対して、質は悪いけど時間効果の代替変数として用います。)

  3. 商品の種類に関しては、種類ごとに傾きがそんなに大きく違ったりはしなさそうですが、平均値自体はズレていそうなので、ダミー変数という平均値のずれを測れる要素を入れて調べます。
    人気が下がる要因とか無いと思うので、基本的にはプラスかな

  4. タグの数は、多ければ多いほど捕捉率が上がりそうなので、多分プラス

  5. 説明文は、長ければ長いほど丁寧な説明になるはずなので、多分プラス
    ただ、完全なデータが取得できたわけでは無いので、参考値。
    (なお、長くなり過ぎた際には下がることも想定される。)

  6. タグの数が増えれば増えるほど、1つ増えるごとの効果は小さくなりそうなので、それをモデル化。
    具体的には、2乗項を入れる。値段・説明の長さにも同様の措置。
    マイナスが想定される
    (逓減型となっている。つまり、1階条件または導関数が単調減少と想定される。)

 

不均一分散検定

仮説を立て終わったところで、どのような解析手法を採用するか考えます。

 

基本的には、データの質が低すぎてそれ以上のことが出来ないので「重回帰分析」という、学部生でも統計学の経済学版である計量経済学をやれば使える手法を採用しようと思ったのですが、重回帰分析がきちんと使えるためには条件が多く、そのうちの「不均一分散」という問題について嫌な予感がしたので調べます

 

使う手法は2種類。

目視と検定です。

 

さて、知らない人にも何となく楽しんでもらえるように、理想的にはどういう状態になるか言っておくと、Residual vs Fittedは完全に均一にばらけた状態で図中に出て、NoirmalQ-Qは直線状になるはずですが…。

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不均一分散の確認

ギャー。

一か所に固まってるし、蛇行してる!?

 

思いっきり不均一分散がありました。

ちなみに、ブルーシュ・ぺーガン検定とかも、当然ながら不均一分散仮説を棄却できませんでした。そりゃそーだ。

 

ということで、重回帰分析(古典的k変数回帰モデル)はそのまま使えません。

仕方ないので、対処するためにもうちょっと高度な手法を使います。

 

具体的に専門用語を使うと、不均一分散を想定して、一般化最小二乗法を用いて信頼区間を計算するロバスト標準誤差を用いた推定を行います。

 

そもそも、知ってる人向けにさらに愚痴を言っておくと、どう考えてもそもそも欠落変数があるので、誤差項と独立変数は相関してるわ、内生性の問題とかもクリアできてないわ、欠落変数バイアスはかかるわで結構な状態であり、教授に修論の題材とかで持っていったらたちまち処されてしまうこと間違いなしですが、データが無い以上どうしようもないので、何かより良いデータを得る人が出て、別に推定してくれる嚆矢に成れたらと思います。

 

統計解析と結果

さて、改めてモデルを作っておくと、「スキ!」の数への相関を

  1. 値段・番号・種類・個別タグ・説明の長さ・タグ数
  2. 値段・番号・種類・個別タグ・説明の長さ・タグ数・2乗項
  3. 値段・番号・種類・説明の長さ・タグ数

で調査しました。

 

こうすることで、他の条件を一定にして。

つまり例えば、価格とタグなら「1000円の商品と0円の商品の人気を比べたいときに、価格の影響を取り除いた形で、タグの分だけの効果を見る」というようなことが出来るようになります。

 

使った変数は、モデル1で191個にもなります。

一般に、サンプルの10分の1以上の数は放り込まない方が良いと言われるので、結構ギリギリです。

 

さて、結果ですが、モデル①においては33の項目が10%有意になりました。

また、同じく太字22個が5%有意です。

残念ながらモデル②では、含めてみた2乗項は有意にはなりませんでした。

 

太字が5%有意で、二段目が信頼区間です。
推定結果
  Model 1 Model 2 Model 3
(Intercept) -87.140 -103.465 -52.860
  [ -206.499; 32.218] [ -229.960; 23.031] [ -186.777; 81.056]
num 0.004 0.006 0.004
  [ 0.003; 0.005] [ 0.003; 0.010] [ 0.003; 0.005]
price2 0.038 0.058 0.037
  [ 0.021; 0.055] [ 0.035; 0.081] [ 0.023; 0.051]
kind_factor3Dキャラクター 218.400 213.384 135.458
  [ 83.588; 353.212] [ 79.169; 347.598] [ -11.945; 282.861]
kind_factor3Dモデル(その他) 75.563 77.860 30.487
  [ -35.472; 186.599] [ -33.915; 189.635] [ -101.232; 162.206]
kind_factor3D衣装・装飾品 146.948 146.655 148.887
  [ 27.346; 266.551] [ 26.375; 266.936] [ 13.562; 284.211]
kind_factor3D環境・ワールド 176.720 176.470 212.045
  [ -20.019; 373.459] [ -25.896; 378.835] [ -14.071; 438.161]
kind_factor3D小道具 76.973 82.553 37.351
  [ -36.852; 190.799] [ -31.475; 196.581] [ -94.777; 169.479]
kind_factor4コマ漫画 -18.964 -24.535 -43.288
  [ -484.640; 446.712] [ -145.400; 96.329] [-4688.929; 4602.353]
kind_factorBGM素材 17.063 19.996 -3.655
  [ -714.022; 748.147] [ -212.192; 252.183] [-1265.603; 1258.293]
kind_factorPCゲーム 64.629 71.450 6.236
  [ -140.730; 269.988] [ -131.499; 274.400] [ -150.792; 163.264]
kind_factorTシャツ -48.602 -68.101 -67.952
  [ -219.184; 121.981] [ -309.477; 173.275] [ -206.857; 70.954]
kind_factorVRoid 105.287 108.617 37.732
  [ -23.774; 234.347] [ -22.027; 239.261] [ -100.199; 175.662]
kind_factorアイコン 98.279 101.383 70.387
  [ -46.527; 243.085] [ -43.986; 246.752] [ -95.021; 235.794]
kind_factorアクセサリー(その他) -88.501 -31.736 -116.342
  [ -363.667; 186.665] [ -214.167; 150.695] [ -372.300; 139.615]
kind_factorアクリルキーホルダー -13.637 -28.039 -46.557
  [ -149.748; 122.474] [ -170.527; 114.448] [ -184.509; 91.395]
kind_factorアクリルフィギュア -35.095 -59.934 -63.842
  [ -156.338; 86.148] [ -187.656; 67.787] [ -201.099; 73.416]
kind_factorアニメーション 53.775 50.621 -14.195
  [ -180.494; 288.044] [ -184.979; 286.220] [ -190.125; 161.736]
kind_factorイヤリング・ピアス 92.470 90.438 3.402
  [ -102.626; 287.565] [ -100.099; 280.975] [ -139.518; 146.322]
kind_factorイラスト(その他) -68.688 -80.897 -91.147
  [ -691.006; 553.629] [ -207.615; 45.822] [-1155.822; 973.528]
kind_factorイラスト3D素材 263.658 265.656 147.197
  [ 116.173; 411.143] [ 40.444; 490.869] [ 14.603; 279.791]
kind_factorイラスト作品 -17.380 -23.610 -47.673
  [ -158.423; 123.663] [ -239.607; 192.386] [ -820.969; 725.622]
kind_factorイラスト集・CG集 -23.804 -41.648 -51.079
  [ -140.029; 92.420] [ -160.571; 77.275] [ -632.615; 530.457]
kind_factorイラスト素材 -25.176 -19.011 21.748
  [ -204.194; 153.843] [ -205.512; 167.491] [ -117.650; 161.146]
kind_factorキーホルダー・ストラップ -59.867 -63.397 -80.960
  [ -339.885; 220.151] [ -494.469; 367.675] [-1846.915; 1684.996]
kind_factorグッズ(その他) -0.517 -38.281 -72.654
  [ -173.903; 172.869] [ -410.876; 334.314] [-1210.675; 1065.367]
kind_factorグラス・タンブラー・マグカップ 32.825 18.457 7.781
  [ -121.941; 187.591] [ -110.855; 147.768] [ -124.915; 140.477]
kind_factorゲーム音楽 15.943 18.982 -10.115
  [ -119.886; 151.773] [ -123.069; 161.033] [ -159.851; 139.620]
kind_factorゲーム関連商品 66.056 65.424 70.644
  [ -86.153; 218.265] [ -88.671; 219.519] [ -79.992; 221.279]
kind_factorシール・ステッカー -69.773 -69.707 -94.130
  [-1560.763; 1421.218] [ -385.939; 246.525] [-2411.954; 2223.693]
kind_factorその他書籍 66.321 66.959 38.114
  [ -90.520; 223.163] [ -95.092; 229.010] [ -131.012; 207.239]
kind_factorソフトウェア 104.774 109.005 89.017
  [ -38.097; 247.645] [ -35.413; 253.424] [ -55.994; 234.027]
kind_factorネックレス 31.584 33.879 22.940
  [ -108.787; 171.955] [ -680.847; 748.606] [-1051.952; 1097.832]
kind_factorパーカー 79.037 79.963 7.908
  [ -69.687; 227.762] [-1934.353; 2094.278] [-1691.580; 1707.396]
kind_factorハードウェア・ガジェット -21.861 -42.917 -64.198
  [ -158.165; 114.443] [ -185.832; 99.998] [ -197.576; 69.179]
kind_factorバッジ 178.817 182.976 67.699
  [ -766.818; 1124.451] [ -440.795; 806.746] [-1344.231; 1479.629]
kind_factorファッション(その他) -11.093 -7.314 -46.103
  [ -229.383; 207.198] [ -262.819; 248.191] [ -203.474; 111.267]
kind_factorヘアアクセサリー 134.130 148.479 135.768
  [ -938.640; 1206.900] [ -245.261; 542.218] [-2210.755; 2482.292]
kind_factorボイス -1.432 -1.835 -40.603
  [ -126.213; 123.348] [ -126.361; 122.691] [ -195.473; 114.268]
kind_factorボカロ -59.313 -58.576 -73.341
  [-1611.708; 1493.081] [-1158.252; 1041.100] [-1856.311; 1709.628]
kind_factorポスター 3.577 7.554 -14.824
  [ -125.759; 132.913] [ -121.595; 136.703] [ -152.592; 122.945]
kind_factorロゴ 80.145 65.998 21.747
  [ -452.310; 612.599] [ -327.047; 459.042] [ -619.383; 662.877]
kind_factor音楽(その他) 2.948 3.844 2.634
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kind_factor音楽一般 0.666 1.769 -30.731
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kind_factor絵画 -53.790 -53.174 -103.851
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kind_factor缶バッジ -10.126 -18.729 -36.937
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kind_factor技術書 106.669 105.441 68.896
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kind_factor彫刻・オブジェ 20.463 21.920 -13.309
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kind_factor帽子 -23.752 -25.422 -14.711
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kind_factor漫画・マンガ 103.630 103.223 64.815
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VRChat -0.971 -0.517  
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FBX -12.813 -15.342  
  [ -36.838; 11.213] [ -37.916; 7.231]  
`3Dモデル` -5.779 -6.139  
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VRChat想定 28.301 26.995  
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`3Dキャラクター用装飾` 9.078 9.898  
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VRoid -27.477 -26.194  
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VRChat可 -15.404 -14.574  
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新作 -39.117 -40.230  
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`3D` 7.797 6.735  
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Unity -18.210 -17.909  
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VRM 1.474 -1.082  
  [ -62.293; 65.241] [ -64.683; 62.519]  
`3D素材` -21.719 -22.499  
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`3DCG` -9.861 -4.798  
  [ -53.848; 34.126] [ -47.964; 38.367]  
unity 13.608 12.730  
  [ -23.050; 50.267] [ -24.468; 49.928]  
`VRoid Studio` -9.630 -7.607  
  [ -88.404; 69.144] [ -86.338; 71.124]  
`3D用テクスチャ` -35.105 -34.066  
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`3D Character attachments` 71.600 67.998  
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VTuber -39.790 -37.421  
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`3Dデータ` 17.717 20.486  
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武器 -31.135 -28.694  
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アバター -33.180 -38.177  
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オリジナル -12.406 -15.503  
  [ -91.681; 66.869] [ -94.371; 63.365]  
`3D Props` -25.289 -21.449  
  [ -76.503; 25.924] [ -72.566; 29.668]  
衣装 -58.521 -57.781  
  [ -111.940; -5.101] [ -110.061; -5.502]  
Blender -40.169 -37.362  
  [ -80.068; -0.269] [ -77.203; 2.480]  
アクセサリー 26.986 35.727  
  [ -32.153; 86.125] [ -19.824; 91.277]  
VRC想定モデル 30.038 28.727  
  [ -60.190; 120.266] [ -60.887; 118.342]  
`Textures for 3D Mdel` 61.439 63.253  
  [ -39.310; 162.189] [ -37.329; 163.835]  
vrchat向け 24.765 24.761  
  [ -124.836; 174.365] [ -124.491; 174.014]  
VRoid用テクスチャ 3.120 1.323  
  [ -74.127; 80.367] [ -75.499; 78.144]  
`3D用背景` 23.655 24.146  
  [ -59.059; 106.369] [ -57.087; 105.379]  
`vroid texture` -82.980 -84.858  
  [ -225.423; 59.464] [ -227.686; 57.970]  
VRoidテクスチャ -11.580 -14.782  
  [ -86.657; 63.497] [ -92.526; 62.961]  
unitypackage 10.261 14.119  
  [ -49.853; 70.375] [ -46.930; 75.168]  
かわいい 96.093 97.818  
  [ -5.548; 197.734] [ -5.144; 200.780]  
12.678 10.180  
  [ -27.807; 53.164] [ -31.050; 51.411]  
6.222 2.114  
  [ -51.860; 64.303] [ -54.396; 58.625]  
vroid衣装 57.259 53.995  
  [ -57.527; 172.045] [ -69.133; 177.123]  
texture 45.109 49.962  
  [ -67.311; 157.529] [ -60.034; 159.957]  
vrchatアクセサリー -63.385 -69.860  
  [ -174.207; 47.436] [ -182.102; 42.383]  
clothes 24.710 26.054  
  [ -89.819; 139.240] [ -88.202; 140.310]  
ケモノ -135.330 -131.816  
  [ -224.381; -46.279] [ -221.012; -42.620]  
vrcHAT利用可 -54.974 -53.929  
  [ -162.943; 52.996] [ -162.397; 54.538]  
VRoid用衣装 26.311 28.603  
  [ -51.501; 104.123] [ -48.482; 105.689]  
帽子 102.387 106.442  
  [ -65.851; 270.625] [ -60.773; 273.657]  
vrchatワールド -93.511 -91.676  
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着せ替え -31.634 -34.344  
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avatar -119.674 -119.438  
  [ -241.129; 1.782] [ -247.247; 8.372]  
`3Dキャラクター用衣装` 86.334 85.797  
  [ 6.059; 166.608] [ 4.965; 166.630]  
`3Dモデル小物` -91.672 -91.613  
  [ -224.101; 40.758] [ -224.079; 40.853]  
UnityPackage 7.445 8.157  
  [ -44.042; 58.932] [ -43.929; 60.243]  
cute -42.079 -42.505  
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ハロウィン -25.509 -22.175  
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テクスチャ 17.898 19.780  
  [ -54.229; 90.025] [ -53.395; 92.954]  
Unity3D -22.232 -29.402  
  [ -116.358; 71.895] [ -124.053; 65.249]  
`3dモデル 小物` -72.840 -76.415  
  [ -208.961; 63.280] [ -214.049; 61.218]  
`3Dモデル衣装` 40.559 32.275  
  [ -30.421; 111.538] [ -42.142; 106.692]  
`PMD/PMX` 19.101 25.840  
  [ -103.297; 141.499] [ -98.625; 150.305]  
`3d素材` 23.429 26.474  
  [ -87.876; 134.734] [ -86.608; 139.555]  
家具 -15.097 -17.684  
  [ -84.260; 54.066] [ -88.855; 53.487]  
vroidhub 70.144 72.927  
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`vrchat model` 118.414 121.988  
  [ -135.794; 372.623] [ -133.170; 377.146]  
ワンピース 22.520 16.973  
  [ -60.662; 105.702] [ -64.888; 98.834]  
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`vrchat avatar` 97.364 96.725  
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`3D Effects` 26.275 33.224  
  [ -64.417; 116.967] [ -59.875; 126.323]  
anime -33.245 -30.585  
  [ -128.158; 61.668] [ -132.652; 71.483]  
-16.172 -17.782  
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指輪 0.608 -1.863  
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unity3d -23.704 -22.365  
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VRChatワールド -123.156 -118.295  
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薄荷 47.033 47.902  
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VR -1.722 -1.604  
  [ -70.081; 66.637] [ -67.716; 64.508]  
パーティクル 115.894 117.095  
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狐雪 79.822 76.999  
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`3D用エフェクト` -26.967 -28.171  
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`3D Motion assets` -84.574 -90.681  
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アバター用小物 -128.408 -129.877  
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SF 72.901 70.826  
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アクセサリ -6.203 -1.983  
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ファンタジー -34.168 -35.349  
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ゲーム 27.772 21.041  
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  [ -172.252; 34.599] [ -162.199; 45.219]  
バーチャルマーケット -73.862 -74.857  
  [ -156.037; 8.314] [ -158.979; 9.265]  
`3D Enviroments/World` -36.886 -40.680  
  [ -166.886; 93.115] [ -173.498; 92.138]  
`3D小物` -18.652 -17.575  
  [ -149.486; 112.182] [ -148.675; 113.525]  
`VRChat 3Dモデル` -18.368 -12.536  
  [ -137.582; 100.846] [ -131.547; 106.475]  
メリノ 172.573 168.923  
  [ -62.514; 407.659] [ -66.266; 404.111]  
`vroid hair` -64.324 -63.536  
  [ -297.963; 169.315] [ -305.055; 177.982]  
game 11.262 16.459  
  [ -104.363; 126.887] [ -99.470; 132.387]  
pink 12.198 14.534  
  [ -116.201; 140.598] [ -119.137; 148.206]  
ゴシック 19.711 16.057  
  [ -73.088; 112.510] [ -82.467; 114.580]  
ドレス 26.035 26.152  
  [ -141.777; 193.848] [ -138.282; 190.587]  
ミリタリー -43.814 -51.127  
  [ -98.781; 11.153] [ -108.012; 5.757]  
リボン 132.192 132.762  
  [ -123.108; 387.491] [ -122.985; 388.509]  
女の子 301.885 302.861  
  [ -63.625; 667.395] [ -66.271; 671.992]  
shader -37.730 -37.931  
  [ -142.716; 67.256] [ -143.696; 67.834]  
weapon -35.325 -44.383  
  [ -119.946; 49.296] [ -129.958; 41.191]  
Weapon -72.969 -84.605  
  [ -247.200; 101.262] [ -268.113; 98.902]  
ウルフェリア 119.809 116.051  
  [ 32.897; 206.721] [ 25.520; 206.583]  
バーチャルマーケット4 -9.896 -14.171  
  [ -76.818; 57.025] [ -81.975; 53.633]  
Vroid衣装 36.189 38.611  
  [ -57.592; 129.970] [ -58.692; 135.914]  
VRoid男性 -35.100 -37.552  
  [ -138.596; 68.395] [ -140.864; 65.760]  
幽狐族のお姉様 180.348 171.884  
  [ -101.333; 462.028] [ -114.755; 458.523]  
バーチャルマーケット3 93.001 94.394  
  [ -149.113; 335.116] [ -147.110; 335.899]  
ゼーレ -50.103 -59.231  
  [ -184.962; 84.756] [ -203.868; 85.405]  
animation -78.790 -81.988  
  [ -253.899; 96.318] [ -260.972; 96.997]  
cat 84.741 83.458  
  [ -5.710; 175.193] [ -7.303; 174.219]  
free 93.870 100.866  
  [ -68.749; 256.490] [ -67.598; 269.329]  
MMD -25.475 -32.886  
  [ -132.546; 81.596] [ -146.683; 80.911]  
サイバーパンク 24.014 18.311  
  [ -106.067; 154.095] [ -109.929; 146.551]  
メガネ -23.789 -28.192  
  [ -134.153; 86.575] [ -142.100; 85.716]  
リング -79.748 -79.131  
  [ -203.976; 44.480] [ -203.931; 45.669]  
cluster -43.420 -40.050  
  [ -277.480; 190.641] [ -284.316; 204.216]  
gun 34.264 27.761  
  [ -100.903; 169.431] [ -124.541; 180.063]  
バーチャルマーケット2 -85.364 -82.132  
  [ -183.795; 13.068] [ -179.895; 15.632]  
halloween 23.596 23.274  
  [ -60.401; 107.593] [ -62.552; 109.100]  
shoes -17.045 -17.430  
  [ -88.076; 53.986] [ -90.386; 55.526]  
クリスタ -97.859 -95.341  
  [ -170.958; -24.759] [ -170.210; -20.471]  
スクール水着 -34.662 -34.173  
  [ -141.822; 72.498] [ -141.335; 72.990]  
パーカー 134.418 132.423  
  [ -195.966; 464.803] [ -191.779; 456.625]  
ロボット -109.959 -108.396  
  [ -196.842; -23.075] [ -199.342; -17.451]  
和風 59.259 58.751  
  [ -134.421; 252.939] [ -136.567; 254.069]  
FBX形式 -94.886 -98.013  
  [ -171.430; -18.341] [ -174.671; -21.354]  
Prefab 166.369 162.968  
  [ -398.736; 731.474] [ -404.628; 730.564]  
accessories 22.699 24.646  
  [ -60.498; 105.896] [ -70.088; 119.379]  
VRChat想定アクセサリー -47.322 -50.114  
  [ -181.833; 87.189] [ -182.310; 82.082]  
Avatar -156.482 -165.906  
  [ -325.646; 12.682] [ -339.247; 7.435]  
アバター衣装 4.933 5.180  
  [ -96.199; 106.064] [ -95.945; 106.306]  
girl -65.742 -71.532  
  [ -157.398; 25.914] [ -169.353; 26.288]  
avatar3.0 -7.110 -16.534  
  [ -149.747; 135.526] [ -163.746; 130.679]  
fashion 52.873 47.941  
  [ -98.585; 204.331] [ -112.664; 208.547]  
OBJ -14.391 -14.696  
  [ -109.843; 81.061] [ -108.678; 79.286]  
イヤリング 61.485 58.964  
  [ -94.669; 217.639] [ -97.167; 215.096]  
スカート -99.386 -96.855  
  [ -217.966; 19.194] [ -216.202; 22.492]  
blue -34.357 -40.322  
  [ -168.945; 100.232] [ -202.106; 121.463]  
sexy -68.614 -61.598  
  [ -185.665; 48.437] [ -210.028; 86.833]  
Udon 103.907 104.160  
  [ -182.961; 390.775] [ -183.531; 391.850]  
ここあ 353.183 349.081  
  [ -18.942; 725.307] [ -31.562; 729.724]  
31.158 26.669  
  [ -96.513; 158.829] [ -101.463; 154.802]  
dress -102.583 -104.296  
  [ -208.473; 3.308] [ -209.784; 1.192]  
UdonSharp 18.316 18.581  
  [ -182.265; 218.898] [ -181.664; 218.825]  
VRC想定アクセサリ -44.937 -48.493  
  [ -220.930; 131.055] [ -222.891; 125.906]  
Particle -74.841 -72.045  
  [ -454.596; 304.914] [ -455.167; 311.078]  
Pini 26.084 20.490  
  [ -108.137; 160.305] [ -112.657; 153.637]  
Vket4 -169.407 -175.812  
  [ -294.908; -43.905] [ -301.428; -50.196]  
クリーチャー -22.476 -9.572  
  [ -207.417; 162.466] [ -191.881; 172.738]  
outfit -12.328 -7.680  
  [ -93.609; 68.952] [ -95.125; 79.765]  
vstream -31.674 -34.292  
  [ -202.663; 139.315] [ -208.577; 139.993]  
`3dmodeljapan` -14.274 0.617  
  [ -196.102; 167.554] [ -240.200; 241.435]  
nexp 0.010 0.008 0.016
  [ -0.005; 0.026] [ -0.023; 0.040] [ 0.001; 0.032]
ntag 2.478 1.674 1.071
  [ -2.634; 7.591] [ -6.222; 9.570] [ -1.245; 3.388]
num2   -0.000  
    [ -0.000; 0.000]  
ntag2   0.012  
    [ -0.283; 0.307]  
nexp2   -0.000  
    [ -0.000; 0.000]  
price2jou   -0.000  
    [ -0.000; 0.000]  
R2 0.322 0.326 0.141
Adj. R2 0.241 0.244 0.119
Num. obs. 2248 2248 2248
RMSE 198.253 197.809 213.560
* Null hypothesis value outside the confidence interval.

 

なお、分からない人向けに超ざっくり書いておくと、ここでは10%有意が、90%の可能性で、統計学的に偶然だとは思えない違いがある(つまり、実際に差がある可能性が高く、条件次第では因果関係がある可能性が高いと考えられるという)こと、5%有意が同じく95%の確率で差があることを指します。

(本当にざっくり書いてます。厳密な人に話すと怒られそうなくらい。)

 

推定結果の解釈

有意だったものを以下、8類型に分類してみました。

  1. 時間と価格の制御変数
    番号、価格、説明の長さ(これはModel3のみ)

  2. 商品がどのような種類か
    kind_factor3Dキャラクター
    kind_factor3D衣装・装飾品、kind_factor3D環境・ワールド、kind_factorイラスト3D素材

  3. どんなファイル形式などをとっているか
    3D用オブジェクト
    3D Character attachments、fbxモデル、FBX形式particleパーティクルavatarAvatar

  4. イベントに出店していたか
    バーチャルマーケット、バーチャルマーケット2、Vket4

  5. どんなソフトを想定しているか
    Blender
    クリスタ、VRChat想定

  6. どんな特徴がある商品か
    武器
    衣装髪型新作3Dモデル 小物3Dキャラクター用衣装、dress、cat、ケモノロボット、かわいい

  7. どんなアバターを対象とした商品か
    ウルフェリア
    、ここあ

 

ただし、因果効果の識別には「時間的な前後が逆じゃないか(逆向きの因果)」や「違う経路による効果が出ていないか(疑似相関・交絡変数)」の問題があります。

 

普通に考えれば「スキ!が増えたから種類が変わる・後からタグを増やす」なんて因果は存在しないはずなので前者は割とどうでも良いですが、後者にはキチンと気をつけねばなりません。

 

なので、例えばタグ等に関しては「商品の性質自体の影響」と「タグにより検索性が上がる効果」を分けて測定できていないことに注意する必要があります。

 

あくまで因果関係というよりは、関連する要素を調べていると考えた方が良いでしょう。

 

また、これは「差が出た」という話なので、予想通りの差が出たとは限りませんでした。

 

例えば「ケモノ」「ロボット」「武器」「衣装」「3Dモデル 小物」などはマイナスが出ました。

ケモノやロボット、人気が無いのでしょうか…?

 

「衣装」あたりは、多重共線性(マルチコリレーション)という現象を避けるため、相関0.9以上は消すべきと言われるところ、念のために相関0.8以上の物は消して推定したのですが、「kind_factor3D衣装・装飾品」「3Dキャラクター用衣装」のプラスと変に干渉してしまって、変な値が出た感じも拭えません。

 

同じく「particle」と「パーティクル」、「FBX形式」と「fbx形式」も相殺しています。

ただ、前者は英語が大きなマイナスで、カタカナがプラスなので、もしかしたら検索性自体が影響を与えている可能性も否定は出来ません。

「dress」「avatar」「Avatar」など、多くの英字はマイナスという結果になっています。

 

また、「3D用オブジェクト」「Blender」「クリスタ」などもマイナスですが、この辺は、ファイル自体の扱いづらさが原因の可能性もありますね。

 

「バーチャルマーケット」系も、実は全部マイナスです。

これに関しては、バーチャルマーケットの商品は、実はBoothよりもVket Storeで買われるケースが多いという仮説が考えられます。

 

「新作」のタグがマイナスなことは、非常に意外でした。

「新作」という響き自体が人気が出そうな気がしていましたが、新しいからこそ、まだ目にした人が少なく、思ったよりも伸びていない、ということなのでしょうか。

 

他方、予想通りプラスになってくれたものを考えてみましょう。

 

例えば、番号が有意になっています。

これは本質というより、どちらかというと分析を制御するために入れたものなのですが、古い物ほど「スキ!」を獲得している傾向は見えます。

 

加えて、「kind_factor3Dキャラクター、kind_factor3D衣装・装飾品、kind_factor3D環境・ワールド、kind_factorイラスト3D素材」などは、3DCG・3DCG集に対して、より「スキ!」の数が多いと言えそうです。

これは、やはりアバターやワールドは、全般的に他の物より人気だとか、そういう感じで見ても良いかもしれません。

 

「ウルフェリア、ここあ」などのタグがある、つまり専用衣装などの場合は「スキ!」の数が多いことも確認できます

 

これは、残念ながら有意とならないため差があると実証できなかった*11ほかのアバターのタグに関しても、割と共通してプラスとなっており、場合*12によっては正の因果関係が存在する可能性も期待されます。

 

また、タグによるアバターの特徴の説明が影響するのか、タグの関係性も調べると消えてしまいますが、モデル3では説明の長さが多いと「スキ!」の数に差があると認められるのも、面白いと言えます。

 

つまり、丁寧に解説すれば、「スキ!」が増える可能性があると言えるかもしれません。

1000文字あたり24個しか増えないけど

 

また、全部商品がVRChatを想定しているのは当然なので、「VRChat想定」がプラスだということは、結局しっかり特性を表示してタグで検索しやすくしてやることが、「スキ!」の数と関係している可能性もあります。

 

 

結論

以上より、結果と考察から以下のような仮説が導き出されました。

  1. 「ケモノ」「ロボット」など、一部の人に滅茶苦茶刺さる商品は、残念ながら全体的には普通の商品よりも人気が無い可能性がある*13

  2. 英語でタグを書くと、もしかしたら検索性が悪くなり、マイナスの影響を与えている可能性がある。
    また、しっかり特性を表示するタグをつけて検索を行いやすくすることが、「スキ!」の数と関係している可能性がある。

  3. Blender」「クリスタ」など、ファイルやソフト自体が難しい、あるいはニッチである場合、「スキ!」が少ない原因となる可能性がある。

  4. バーチャルマーケットに出品されたの商品は、実はBoothよりもVket Storeで買われるケースが多いという仮説が立てられる。

  5. アバターやワールドは、全般的に他の3DCG作品より人気である可能性がある。

  6. 専用衣装などの場合は「スキ!」の数が増える可能性が高い。

  7. 説明文で丁寧に解説すれば、「スキ!」が増える可能性がある。

 

残念ながら本論は、繰り返しとなりますが、以下のような問題も抱えています。

  1. そのアバターのクオリティ自体がどう影響しているのかなど、データの制約により測定できない要素があったり、作者さんの人気度をtwitterのフォロワー数から見てやろうと企むもスクレイピングを拒否するタグが設定されていたりして、思うようにデータが揃わなかったこと。

  2. そもそものサンプルが思ったよりも少なく、特にダミー変数を用いた信頼区間の計算が怪しくなってしまったことで、かなりのタグが有意から取りこぼされてしまった可能性

  3. タグが多すぎた結果、似たようなタグが沢山あるのに気づかなかったことや、時間的制約から除外の処置を吟味することが出来ずに解析を行った結果、一部に干渉してしまったような謎の結果をもたらしてしまったこと。

  4. そもそも使用した手法自体がそんなに上質な物では無いこと。

  5. 因果関係を分析しようとしたものの、結局、関係する要素を炙り出すにとどまってしまい、因果関係に関しては可能性しか示唆できなかったこと

 

改めてデータ分析手法の高度化の一方で、データそのものが無いとどうしようもないという事実や、現実に理論を適応することへの難しさを感じることとなりましたが、結論の一部は今すぐにでも試してみれるということや、個人的な学びとなったという事実も含め、一応、多少は意味のある論考となったのではないかと思われます。

 

また、記述統計自体からも色々と面白い事実が見え、それ自体にも価値があったと思われるので、ようやく何か誰かに面白く思ってもらえそうな記事が書けたことに、安堵しています。

 

それでは、皆様が楽しく読んでくださったことを願って。

朱りんふぁ

 

 

参考文献

浅野皙・中村二郎(2009)「計量経済学 第2版」,有斐閣

有賀友紀・大橋俊介(2021)「RとPythonで学ぶ [実践的]データサイエンス&機械学習 [増補改訂版]」

Greene, Willium H(2012) "Econometric Analysis", Pearson,  Seventh Editon

国立教育政策研究所(2008)「社会教育調査ハンドブック」,国立教育政策研究所社会教育実践センター

総務省(2019)「政策効果の把握・分析手法の実証的共同研究-報告書総論ver1.0-」,総務省行政評価局

田中隆一(2015)「計量経済学の第一歩」,有斐閣

西山慶彦・新谷元嗣・川口大司・奥井亮(2019)「計量経済学」,有斐閣

BOOTH3Dモデル市場概況(2021年)|hibit|note

 

 

*1:学説は、学会発表や論文の査読等での厳しいふるいにかけられ、かつ複数の検証論文や後追い論文を経て、初めて定説化します。

*2:所属:サークル東京仮想現実社会研究機構

*3:文字列「VRChat」を用いて検索した結果

*4:サークル東京仮想現実社会研究機構では、研究員という名のお友達を募集中

*5:最低限、時間に伴って変化してくれる時系列データとかで無いと厳しい

*6:世の中の経済学部の多くでは、法学部と同じで卒論は必修ではない。

*7:ロバスト標準誤差の計算のための分散共分散行列推定をHC3でしてるので、40年前なら最新だったかも

*8:具体的にはRを使用した。残念ながら、皆大好きPythonではない。

*9:2021年11月24日時点

*10:上から順番に並べて25%、50%、75%などの数値のこと。なお、50%の時を中央値と呼ぶ

*11:気を付けて欲しいのは、有意でなくても「差が無い」とは限らないです。

「差が無いとは言えない」ことが確実では無かっただけなので。

*12:サンプル数やデータがよりそろって分散が小さくなり有意になる場合

*13:別に人気のために作ってるんじゃないと思うので、これはあくまで示された可能性であり、そういう物を作らない方が良いと勧めているのでは無いということだけ誤解しないでいただけると嬉しいです。

【付論】法律・規約・慣習から見る、Boothとスクレイピング

(このページは法学の専門家ではなく、一般人によって書かれました。そのため、内容の絶対的な正しさを保証するものではありません。こちらを基にして何かをされる際は筆者は責任をとれませんので、自己責任の範疇で行ってください。)

 

(このページは2021年12月30日時点での話であり、以降の法改正・規約改正の話題を含みません。)

 

 

 

 

はじめに

現代の、同人創作物に対する社会の反応を、統計的に確認・解析するためには様々なサービスのデータを用いる必要がありますが、殊更にVRメタバース「VRChat」に関する3DCGモデルやUnity拡張アセット、プログラミングコードなどは、日本コミュニティにおいては筆者の知る限り創作物の総合マーケット「Booth」(以下、Booth)を通じて頒布されることが多く、その傾向等に関するデータは、可能ならばBoothから直接取得できるのが好ましいと思われます。

 

しかし、一方で、残念ながらBoothのページからスクレイピングを行い情報を取得する試みは従前から存在しました*1が、その適法性や規約解釈等について述べられる機会は、この付論の本論であるどんな要素がVRChat向け作品の人気に関係していそうか、統計解析してみた! ~VRChatと経済学②~」(以下、本論)を企画・解析した段階*2では筆者の知る限り存在せず、また、この文章の執筆に至るまでにネット上で一部議論*3があったものの、未だ詳細に述べられた文章は無いと思われます。

 

そのため、当付論では、自らがBoothよりスクレイピングを行うにあたり、法律・規約・慣習の面から一般人として可能な範囲で*4調査を行い、達した結論について、特に重要であるという観点より、敢えて本論とページを分けて著述することとしました。

 

結論としては、Boothよりのスクレイピングは、本論が目的とした「①情報の解析が目的であり、②得た情報をそのまま公開せず、③サーバーに過度の負荷をかけない場合、④ほとんどのページと⑤一部を除く内容」に関しては、法律・規約・慣習上の問題なく行えるのではないかという結論に達しました。

 

以下、詳細に追ってゆきます。

 

 

第1章 法律上の問題

ここでは、主に情報の取得等を行った後、著作権法上利用が許される範囲において確認します。

 

第1節 著作権法

著作権法においては従来、情報解析のための複製等(旧第47条の7)にスクレイピング等に関する規定が存在しましたが、近年著作権法が改正されたことにより改めて、条件を満たす限りスクレイピング著作権法の対象の例外であることが改めて示されました。

 

(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)

第四十七条の五 

電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによつて著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為を行う者(当該行為の一部を行う者を含み、当該行為を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆への提供等(公衆への提供又は提示をいい、送信可能化を含む。以下同じ。)が行われた著作物(以下この条及び次条第二項第二号において「公衆提供等著作物」という。)(公表された著作物又は送信可能化された著作物に限る。)について、当該各号に掲げる行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、いずれの方法によるかを問わず、利用(当該公衆提供等著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る。以下この条において「軽微利用」という。)を行うことができる。ただし、当該公衆提供等著作物に係る公衆への提供等が著作権を侵害するものであること(国外で行われた公衆への提供等にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであること)を知りながら当該軽微利用を行う場合その他当該公衆提供等著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。


一 電子計算機を用いて、検索により求める情報(以下この号において「検索情報」という。)が記録された著作物の題号又は著作者名、送信可能化された検索情報に係る送信元識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。第百十三条第二項及び第四項において同じ。)その他の検索情報の特定又は所在に関する情報を検索し、及びその結果を提供すること。


二 電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること


三 前二号に掲げるもののほか、電子計算機による情報処理により、新たな知見又は情報を創出し、及びその結果を提供する行為であつて、国民生活の利便性の向上に寄与するものとして政令で定めるもの


2 前項各号に掲げる行為の準備を行う者(当該行為の準備のための情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、公衆提供等著作物について、同項の規定による軽微利用の準備のために必要と認められる限度において、複製若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この項及び次条第二項第二号において同じ。)を行い、又はその複製物による頒布を行うことができる。ただし、当該公衆提供等著作物の種類及び用途並びに当該複製又は頒布の部数及び当該複製、公衆送信又は頒布の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

著作権法 | e-Gov法令検索より。2021年12月30日閲覧。太字は筆者強調。)

 

(参考:改正前)

情報解析のための複製等(第47条の7)

 

コンピュータ等を用いて情報解析(※)を行うことを目的とする場合には,必要と認められる限度において記録媒体に著作物を複製・翻案することができる。

ただし,情報解析用に広く提供されているデータベースの著作物については,この制限規定は適用されない。

※情報解析とは,大量の情報から言語,音,映像等を抽出し,比較,分類等の統計的な解析を行うことをいう。

 

著作物が自由に使える場合 | 文化庁より。2021年12月30日閲覧。一部太字は、強調のため著者が行った。)

 

つまり、統計的な解析を行う場合は、基本的には自身のPCなどに情報を保存してよいことになります。

また、改正により、共同作業のためのデータのやり取り等が明確に合法化されたとされます*5

 

そもそも、私的利用や公的教育機関での教育目的での複製に関しては、条件はあるものの原則として著作権法の保護の対象外であることが有名ですが、スクレイピングに関しても、改めて明記されたと言えます。

 

また、その情報公開や、「必要と認められる限度」に関しては、文化庁による解釈は以下のとおりであると思われます。

 

[3]電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(第47条の5関係)

 

電子計算機を用いて,情報を検索し又は情報解析を行い,及びその結果を提供する者は,公表された著作物又は送信可能化された著作物について,その行為の目的上必要と認められる限度において,当該行為に付随して,軽微な利用を行うこと等ができることとすることを規定しています。

 

著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について | 文化庁より。2021年12月30日閲覧。一部太字は、強調のため著者が行った。)

 

以上のように、統計解析を行うのに必要な部分に限れば、スクレイピングをして、その結果を提供しても大丈夫と言う解釈が成り立ちます。

 

一方で、取得した情報をそのまま公開することは、残念ながら特に認められていないということになります。

 

以下のような場合には、違法となる可能性があるので注意が必要です。

1. 取得情報を複製した物の譲渡
2. 目的外利用

 

スクレイピングは違法?3つの法律問題と対応策を弁護士が5分で解説 | topcourtより。2021年12月30日閲覧。)

 

あくまで、保証されているのは統計的な解析を目的とした取得と、事実に過ぎない統計的な解析結果の公開のみです。

 

著作権法は創作を保護する為の法律で、事実(ex.〇〇が△△個あった)は保護の対象にならない。

Webスクレイピングの注意事項一覧 - Qiitaより。2021年12月30日閲覧。)

 

[1]著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(第30条の4関係)

 

著作物は,技術の開発等のための試験の用に供する場合,情報解析の用に供する場合,人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には,その必要と認められる限度において,利用することができることを規定しています。

これにより,例えば人工知能(AI)の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為等,広く著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます。

 

著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について | 文化庁より。2021年12月30日閲覧。一部太字は、強調のため著者が行った。)

 

なので、例えば検索サービスを提供する場合などは、前述の第45条1項を適用することになります。(改正前は47条の6が根拠でした)

 

(参考:改正前)

送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等(第47条の6)

 

インターネット情報の検索サービスを業として行う者(一定の方法で情報検索サービス事業者による収集を禁止する措置がとられた情報の収集を行わないことなど、政令(施行令第7条の5)で定める基準を満たす者に限る。)は、違法に送信可能化されていた著作物であることを知ったときはそれを用いないこと等の条件の下で、サービスを提供するために必要と認められる限度で、著作物の複製・翻案・自動公衆送信を行うことができる。

 

著作物が自由に使える場合 | 文化庁より。2021年12月30日閲覧。)

 

残念ながら当付論の目的においてはこちらは対象外であるので詳しくは述べませんが、こちらに関しても、条文上で違法ダウンロードをしてはいけないことや、一定の基準を満たしていることなどが条件づけられているのには、注意が必要です。

 

この辺に関しては、上記で疑問や不足を感じられる場合は、

  1. Webスクレイピングの注意事項一覧 - Qiita
  2. 改正著作権法が日本のAI開発を加速するワケ 弁護士が解説:「STORIA法律事務所」ブログ - ITmedia NEWS
  3. 第1章 スクレイピングの注意点 - Scrapy Note

も詳しいので、ご一読いただくと良いかもしれません。

 

第2節 動産不法侵入罪

住宅とかへの不法侵入が不動産に対する物なら、サーバーとかに対する侵入もあるよねって話です。

 

残念ながら、法律家による解説はこちらに関してはパッと見当たらなかったのですが、ふたつほどのサイトでは、同様の説明がなされています。

 

サーバへのアクセスで抵触しかねない基準と対策

  • 同意の欠如 -> Webページが提示する条項を守ろう
  • 実害 -> サーバへの負荷等を考えよう
  • 意図性 -> プログラムを書いたなら意図がある

PythonでWebスクレイピングする時の知見をまとめておく - Stimulatorより。

2021年12月30日閲覧。)

 

また、第1章 スクレイピングの注意点 - Scrapy Noteにおいても、「同意の欠如」「実害の発生」「意図的な行為」が挙げられています。

 

つまり、それぞれ

  1. Webサイトで禁じられている時は同意が欠如しているので違法
  2. 過剰なアクセス等により実害が発生したら違法
  3. プログラムを書いた以上は、知らなかったでは済まない可能性

ということだと思います。

 

以上に関しての法律的な詳細は上記のサイトをご覧いただくことになりますが、これを踏まえて言えることは

  1. Webサイトの利用規約などをしっかり確認しよう
  2. 必ずシステムを休止させるプログラムを入れよう
  3. プログラムはしっかり見直そう

ということで、後のBoothの規約の章や、技術的な慣習のところにつながってゆきます。

 

まとめ
  1. 統計的な解析のために必要な部分をスクレイピングしたりするのはOK

  2. ただし、結果は公開してもいいけど、取得した原データは公開してはいけない

  3. 検索サービスに関しては上記と別の条項に従う

  4. スクレイピングの際は、Webサイトの利用規約などを確認しよう

  5. プログラムを組む際は休止などに気をつけよう

 

 

第2章 Boothの規約を確認する

第1章では法律に関して見てきましたが、その結果、利用規約が非常に重要だということが分かりました。

しかし、それでは今までなぜこの辺の話があまり出て来なかったのでしょうか。

 

もちろん需要が少ないという問題もあるとは思うのですが、個人的にはピクシブ株式会社(以下、ピクシブ社)におけるサービスの利用規約ガイドラインが複数にわたって存在しており、その詳細をきちんと考えるには広範な範囲を確認する必要が生じることが原因だと思っています。

 

そのため、以下においては、筆者が確認できた限りで利用規約を確認してゆきます。

 

第1節 サービス共通利用規約

 

問題となるのは、以下の主に以下の節です。

 

第14条 禁止行為

ユーザーは、本サービスの利用にあたり、以下の各号に該当する事項を行ってはならないものとします。


1. 当社もしくは第三者著作権意匠権等の知的財産権(第21条第1項に定義します。)、その他の権利を侵害する行為、または侵害するおそれのある行為


2. 本サービスおよび個別サービスに投稿等されている投稿情報を、当該著作者(創作者)の同意なくして転載する行為


3. 本サービスもしくは本サービスの一部(コンテンツ・情報・機能・システム・プログラム等)を使用・転用・転売・複製・送信・翻訳・翻案・改変などして、いかなる手法を問わず商業・営業目的の活動、営利を目的とした利用およびその準備を目的とした利用をすること、その他本サービスの2次利用や複製行為。但し、ユーザー本人による投稿情報は除きます。

(中略)

19. 通常の範囲を超えて本サービスのサーバーに負担をかける行為、もしくは、本サービスの運営やネットワーク・システムに支障を与える行為またはこれらのおそれのある行為

(中略)

22. 日本国内外の法令、公序良俗、本規約または個別規約等に違反し、または他者の権利を侵害すると当社が判断する行為

 

ピクシブ社 サービス共通利用規約より引用。2021年12月30日閲覧。太字は筆者協調。)

 

このうち、第1項と第22項は基本的に「法律と規約に反するなよ」と言ってるだけなので、おそらく特に重要なのは第2項と第19項です。

 

第2項においては、著作権法で認められていたとしても、投稿情報そのままを著作者の許諾無しに転載*6することが禁じられています

 

この場合、利用者は法律だけでなく「サービスの利用規約」という形で契約に縛られることとなりますが、基本的に契約自由の原則から、契約が適法性などを満たす場合は契約の方が法律より優先されます*7

 

つまり、この文章の目的でないためこれ以上言及はしませんが、検索サービスの運用等に関してスクレイピングする場合は、この条項に抵触しないのかどうか、妥当性があると社会的に認められる合理的な理由を持ったうえで、慎重に行った方が良さそうです。

 

また、第3項に関しても、やり方によっては十分に注意する必要があります。

営利目的である場合は禁止されているので、スクレイピングした内容を用いてアフィリエイト等で何か行うのは、厳しいと言えるでしょう。

 

そして、最後に第19項。

端的に言えば「サーバーに負荷かけんな」と言われています。

 

通常の負荷がどのくらいかというのがそもそも難しいわけですが、そもそも第1章でみたように、サーバーに負荷をかけてはいけないという話は別に存在し、一般的にはスクレイピングの際は、Librahack事件における不起訴の事例を引いて、1秒1回程度なら妥当と言われています。

 

ただ、Librahack事件は一つの目安になると思われます。この事件では、逮捕された者が1秒に1回の頻度で1日2000回のスクレイピングを試みた点について、サーバに負荷をかけたとまではいえないとの見方もあります。

 

スクレイピングは違法?3つの法律問題と対応策を弁護士が5分で解説 | topcourtより。2021年12月30日閲覧。)

 

ただ、同文中にもある通り、これは当時の専門家の意見や不起訴処分による結果を受けて言われている慣習的な面を持ち、懐疑的な見方も存在します。

 

この判断は、まだ合法とのお墨付きを与えるものではありませんが、仮にスクレイピングをするとしても「自然検索の範囲内」で対応するのがベターかもしれません。

 

スクレイピングは違法?3つの法律問題と対応策を弁護士が5分で解説 | topcourtより。2021年12月30日閲覧。)

 

 

PythonでWebスクレイピングする時の知見をまとめておく - Stimulatorより。

2021年12月30日閲覧。)

 

サービスの提供機能を過度なリクエストで制限した場合や、物理的に故障させるためにDDOS攻撃などを行えば実害が発生しますので、そのような場合は違法性を問われることになります。ちなみに、リクエストの間隔は1秒あければよい、という話も聞きますが、1秒には何の正当性も無いようです。

 

第1章 スクレイピングの注意点 - Scrapy Noteより。2021年12月30日閲覧。)

 

また、以下の規約で見てゆくように、他の規約だと「極端な負荷をかけるな」程度に収まっていることもあって、恐らくそちらが優先されるので、どのあたりに抑えるべきかは難しい側面がありますが、とりあえずなるべく通常に近いと考える程度にしておいた方が安全なような気もします

 

第2節 登録情報のガイドライン

このガイドラインは、少し解釈が難しいです。

 

冒頭に

 

ガイドラインは、pixiv商標の適切かつ合法的な使用に関するご質問にお答えするため

ピクシブ社 登録商標のガイドラインより引用。2021年12月30日閲覧。太字は筆者強調。)

 

と書いてあり、ピクシブ社のサービス全般に関するものではなく、あくまでサービスの1つであるpixivに限られて書かれているように一見読めるのですが、よく読むと、サービス共通利用規約の冒頭第2条の4項に

 

第1条 はじめに


この「ピクシブ株式会社 サービス共通利用規約(以下「本規約」または個別規約と区別するために「共通規約」といいます。)」は、ピクシブ株式会社(以下「当社」といいます)が提供する各サービス(以下各サービスの総称として「本サービス」といい、個別のサービスを指す場合は「個別サービス」といいます。)を、ユーザーが利用する場合の一切の行為に適用されます。ユーザーは、本規約に同意の上、本規約に従い本サービスを利用するものとします。

(中略)

第2条 個別規約等

  1. 個別サービスに関する個別規約等の有無および個別規約等の適用の有無は、表1のとおりです。
  2. 個別規約等と本規約の定めが矛盾する場合は、別段の定めのない限り、個別規約等の定めが本規約の定めに優先します。
  3. 個別規約と対応するガイドラインの定めが矛盾する場合は、別段の定めのない限り、ガイドラインの定めが個別規約の定めに優先します。
  4. ガイドラインのうち、「登録商標の利用ガイドライン」はすべてのユーザーに適用されます。また、ガイドラインについては表1に記載する以外に個別サービス毎に定める場合があり、個別サービスに紐づくガイドラインが優先的に適用されます。

 

ピクシブ社 サービス共通利用規約より引用。2021年12月30日閲覧。太字は筆者協調。)

 

と書いてあるので、第1表に載っていないものの、すべてに適用されるそうです。

 

また、この第2条第2項と第3項こそが、先のサーバー負荷に関して「通常」より「極端な負荷をかけない」ことが優先されるのではないかという解釈の元になります。

 

重要なのは、以下の部分です。

 

pixivの利用をより便利にするアプリケーションやサービスについて、開発を行われる方は以下の内容をお守りください。

(中略)
4. クローラーなどのプログラムを使って作品を収集する行為、サーバに極端な負荷をかける行為は禁止します。また、それらに違反しない場合でも、当社はその停止を要求する場合がございます。

 

ピクシブ社 登録商標のガイドラインより引用。2021年12月30日閲覧。太字は筆者協調。)

 

このように、スクレイピングクローラー)により「作品を収拾する行為」と、「サーバーに極端な負荷をかける行為」が禁止されています。

 

これを見ると「ではスクレイピング自体が難しいのか」となるのですが、実はこれには2点ポイントがあります。

  1. そもそもガイドラインが優先されること
  2. 「作品」「商品」と「情報」は、恐らく違うということ

 

まず、1つ目の方なのですが、上記の引用を見ていただければわかる通り、基本的には一番優先されるのはBoothのガイドラインになります。

なので、ここに関しては、後で見るBoothのガイドラインの方が重要と言えます。

 

ただ、これに関してはあまり違うことは書いてないので、比較するとそんなに重要ではありません。

 

より重要なのは2つ目の方で、他のBoothに適用されない規約に

 

3 禁止行為・配信禁止内容


以下に該当する行為や内容の配信は禁止事項としています。禁止事項に該当すると判断された場合、配信の強制停止やpixivアカウントの停止・削除を行うことがあります。

(中略)

7. その他禁止事項

 1. クローラーなどのプログラムを使って情報を収集する行為

 

pixiv Sketch LIVE 個別規約とガイドラインより。2021年12月30日閲覧。太字は筆者強調。)

 

というように、規約自体で情報収集を禁じる場合、「情報」とはっきりと明記されています

 

また、この点に関しては、後で見るrobots.txtなどにおいても、pixivでは作品収集につながるページへのアクセスが禁止され、Boothではカートへのアクセス等が禁じられている一方で、普通のページへのアクセスは禁じられていないことから、整合性があると考えられます。

 

そのため、恐らくこの条項が問題になることは無いと思われます。

 

第3節 Booth個別規約

ここに関しては、禁止行為に実はクローラーや過剰アクセス等の記述が、以下のようにありません。

そのため、ガイドラインを見ることの方が重要であると考えられますが、念のために言及しておくことにしました。

 

第7条 禁止行為


ユーザーは、本個別サービスの利用にあたり、共通規約第14条各項に定める事項に加えて、以下の各号に該当する事項を行ってはならないものとします。ユーザーが以下に該当する行為を行った場合、その故意・過失の有無を問わず、当社は、禁止行為を行ったユーザーに対し、強制退会、利用停止、ショップに関するデータの全部もしくは一部の削除、または公開範囲の変更等の不利益な措置をとることがあります。

  1. 当社もしくは第三者の商標、ドメイン等と同一ないし類似のもの、第三者と混同を生じる危険のあるサブドメインの登録
  2. ショップオーナーが創作に関与していない商品を登録・販売する行為
  3. 本個別サービスを介さずに行う直接取引やそれを勧誘する行為、または、勧誘に応じる行為
  4. 本個別サービスでの商品掲載において、掲載内容と明らかに異なる商品を送付する行為
  5. 取引成立後の合理的な理由が無い商品発送を行わない等の行為
  6. 当社からの、またはユーザー間取引を行っている他のユーザーからの連絡に対する不当な応答の遅延や無視を行う行為
  7. ユーザーが前項各号に違反し、当社、他のユーザーまたは他者に対して損害を与えた場合、故意過失を問わず、ユーザーは自己の責任と費用をもって損害を賠償するものとします。

 

第4節 Boothガイドライン

さて、ここまでで「一番優先されるのはガイドラインだ!」と頻繁に言及してきましたが、実はガイドラインに書かれている禁止行為はシンプルそのものです。

 

禁止行為

ユーザーは、BOOTHを利用するにあたり、以下のいずれかに該当する行為、または該当すると当社が判断する行為をしてはなりません。

  1. 販売禁止商品を大量・連続投稿する行為
  2. 中傷・脅迫・経済的もしくは精神的に損害や不利益を与えるタグ付けやコメント等の行為
  3. クローラーなどのプログラムを使って商品を収集する行為
  4. サーバに極端な負荷をかける行為

 

解釈としては上記で述べてきたことのまとめになります。

 

禁止されるのは

  1. 例えば楽をしようとして、スクレイピングで商品を収拾したりしようとする行為
  2. サーバーに極端に負荷をかける行為

であり、それぞれ、商品と情報は区別されている可能性が高いという話と、サーバーへの負荷は矛盾より極端な負荷の禁止が適用される可能性が高い、という結論に落ち着きます。

 

そもそも、サーバーからダウンロードを行う行為自体がWebページの読み込みなどより基本的に負荷が重いことや、有償商品の場合、商品の精算の問題があるため、恐らくこうなっているのではないかと個人的には思います。

 

まとめ

長くなりましたが、まとめると

  1. Boothの「商品」はスクレイピングしてはいけないが、規約上で「情報」と「商品」は、明確に区別されている。

  2. サーバーへの負荷は複数の条項で禁止されているが、恐らく適用されるのはガイドラインの「極端な負荷をかける行為」の禁止。
    ただ、個人的には1秒に1回より低くした方が安全だと思う。

  3. 禁止行為に該当しなくても、Boothに停止を要求される可能性がある。

  4. 営利目的で得た情報を活用してはいけない。

  5. 載っている投稿情報を、著作権者の許可なくそのまま転載してはいけない。

 

第3章 慣習を確認する

さて、ここまでは法律やBoothの規約等を確認してきましたが、スクレイピングを行う際には、もう少し技術的に禁止されていないかのチェックが必要です。

 

robots.txt

動産不法侵入のところでも多分お話ししましたが、大体のサイトにおいては、robots.txtという文章を使って、スクレイピングへの禁止事項等が書いてあります。

 

robots.txtとは、スクレイピングを行うプログラムに対しての指示が書いてある文書である。

robots.txtは慣習的にはURLの直下に置かれるが、これは別に義務ではないので、そもそも配置されていないケースもある。

 

Pythonでスクレイピングのルール(robots.txt)をチェックするツールを作る - Qiitaより。2021年12月30日閲覧。太字は筆者強調。)

 

Boothにおいては以下のようになっています。

 

# See https://www.robotstxt.org/robotstxt.html for documentation on how to use the robots.txt file

User-agent: *
Disallow: /terms
Disallow: /carts
Disallow: /cart

 

https://booth.pm/robots.txtより。2021年12月30日閲覧。)

 

詳しい中身の読み方等は第1章 スクレイピングの注意点 - Scrapy Noteでも見ていただくとして、スクレイピング

  1. 利用規約
  2. カート

に対して禁止されていることが分かります。

 

これは、先のガイドラインの内容とも合致します。

 

また、参考までにpixivの物も載せておくと、

 

User-agent: *
Disallow: /rpc/index.php?mode=profile_module_illusts&user_id=*&illust_id=*
Disallow: /ajax/illust/*/recommend/init
Disallow: *return_to*
Disallow: /?return_to=
Disallow: /login.php?return_to=
Disallow: /index.php?return_to=

Disallow: /artworks/unlisted/*

Disallow: /tags/* * *
Disallow: /tags/*%20*%20*

Disallow: /users/*/followers
Disallow: /users/*/mypixiv
Disallow: /users/*/bookmarks
Disallow: /novel/comments.php?id=
Disallow: /novels/unlisted/*

(中略)

Disallow: /fanbox/search
Disallow: /fanbox/tag

 

https://www.pixiv.net/robots.txtより。2021年12月30日閲覧。)

 

となっています。

 

pixivにおいては、作品の収集やその他の様々な情報の収集を避けるために、沢山の禁止事項が設定されていますが、Boothにおいては無いことが分かります。

 

以上より、Boothに関しては、robots.txtに関しては既存の事実の確認にとどまりました。

 

その他

その他だと、htmlの冒頭に様々な定義を行うメタタグで、クローラーに対し個別の禁止事項が書いてあることがあります。

 

Boothの場合は、少なくとも私が本論でスクレイピングを試みたページに関しては、こちらはありませんでしたが、要確認だと思われます。

 

また、リンクごとにnofollowタグが付いていることもあり、そちらにも気を付ける必要があります。

 

こちらに関しては、残念ながら引っかかってしまったことで、収拾できない情報*8がありました。必ずチェックした方が安全だと思われます。

 

一応、本来の定義的には先ほどまでの条項ほど厳しくないかもしれませんが、同意の欠如に引っかかる可能性があります。

 

robot.txtに比べスクレイピング、クローリングに対する拘束範囲は小さいが、rel="nofollow"されたリンクはWebサイト作者の意図しないリンクである可能性が高いため、処理しておくと良い。

 

Webスクレイピングする際のルールとPythonによる規約の読み込み - Stimulatorより。2021年12月30日閲覧。)

 

また、他にもUser-Agentの偽装を行うべきでは無いというものがあります。

 

これは、主にUser-Agentの偽装自体が元々Webページの運用側がページのテストを行うために開発された機能であって、スクレイピングを行う個人が自身がWebページに対してプログラムであることを隠すために開発された機能では無いからです。

 

また、もしも万が一プログラム等に問題があって、Webページ側がアクセスを差し止めたいときに、差し止めのために使われる情報となるそうです。

 

このほかにも細かい点はありますが、上記に関する詳細なども含め、その辺りは

  1. Webスクレイピングする際のルールとPythonによる規約の読み込み - Stimulator
  2. 【2020年度版】個人用クローラーの開発手順とその注意点 - Qiita

などで確認されることをオススメします。

 

 

結論

以上より、当付論においては

  1. 情報の解析が目的であり(著作権法・Boothガイドライン
  2. 得た情報をそのまま公開せず(著作権法ピクシブ社サービス共通利用規約
  3. サーバーに過度の負荷をかけない場合(動産不法侵入・Boothガイドライン
  4. ほとんどのページと一部を除く内容の情報で(Boothガイドライン・動産不法侵入・robots.txt・メタタグ・nofollow
  5. 営利目的での利用では無く(ピクシブ社サービス共通利用規約
  6. Booth側に停止を要求されず(ピクシブ登録商標ガイドライン
  7. 慣習上のマナーを守る限り(User-Agent偽装など、その他)

に関しては、法律・規約・慣習上の問題なくBoothのスクレイピングを行えるのではないかという結論に達しました。

 

 

参考文献

Webサイト

特に言及が無い場合、最終閲覧は2021年12月30日。

 

著作権法 | e-Gov法令検索

著作物が自由に使える場合 | 文化庁

著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について | 文化庁

改正著作権法が日本のAI開発を加速するワケ 弁護士が解説:「STORIA法律事務所」ブログ(1/7 ページ) - ITmedia NEWS

スクレイピングは違法?3つの法律問題と対応策を弁護士が5分で解説 | TOPCOURT LAW FIRM

 

サービス利用規約 | ピクシブ株式会社

ガイドライン - BOOTH

https://www.pixiv.net/robots.txt

https://booth.pm/robots.txt

 

第1章 スクレイピングの注意点 - Scrapy Note

【2020年度版】個人用クローラーの開発手順とその注意点 - Qiita

Pythonでスクレイピングのルール(robots.txt)をチェックするツールを作る - Qiita

Webスクレイピングする際のルールとPythonによる規約の読み込み - Stimulator

PythonでWebスクレイピングする時の知見をまとめておく - Stimulator 

robots メタタグの指定 | Google 検索セントラル  |  Google Developers

SEO 用に外部リンクの関係性を伝える | Google 検索セントラル  |  Google Developers

 

「転載」と「引用」の違いとは?広報担当者が知っておきたい「転載」ルール | PR TIMES MAGAZINE

BOOTHのサムネをスクレイピングしてOpenCVで顔検出したら精度がよすぎてビビった - Qiita

運用方針・運用理念等の明文化をして欲しい。 · Issue #1 · hibit-at/avatar_network · GitHub

 

書籍

反町勝男(2010)「わかる! 楽しい! 法律」, 東京リーガルマインド

 

 

 

*1:BOOTHのサムネをスクレイピングしてOpenCVで顔検出したら精度がよすぎてビビった - Qiitaなど。

*2:2021年10月末

*3:運用方針・運用理念等の明文化をして欲しい。 · Issue #1 · hibit-at/avatar_network · GitHubなど。

*4:改めて述べるが専門家ではないので、そちらから意見があるようならそちらを尊重すべき

*5:スクレイピングは違法?3つの法律問題と対応策を弁護士が5分で解説 | TOPCOURT LAW FIRMより。

*6:転載とは、一般にそのまま著作物を持ってくることを指す。詳しくは、「転載」と「引用」の違いとは?広報担当者が知っておきたい「転載」ルール | PR TIMES MAGAZINE

*7:この点に関しては、反町勝男(2010)「わかる! 楽しい! 法律」を読んだ

*8:作者の知名度の指標として、Twitterのフォロワー数を調査するためにアカウントを収拾したかったが、nofollowタグが付いていた

無償頒布で何が起きるのか ~VRChatと経済学①~

(当記事は、2021年12月30日に旧題「VRChatと経済学① ~無償頒布と部分均衡分析~」から改題されました。)

 

 

お断り

当記事は、経済学生が、余暇を使って独りで簡便かつ大まかに分析を施したものになります。

そのため、内容に不備・錯誤・不正確性を含まないことを保証しません。*1

 

また、誤りがある場合の責任は全て筆者に帰属するものであり、経済学そのものに帰結するものではありません。

 

 

はじめに

はじめまして、朱りんふぁです。

中華風のハンドルネームだけど、日本人です。

 

突然ですが、皆さんはこんな意見を聞いたことはありませんか?

「作品を無償頒布する行為は、クリエイターが正当な対価を受け取れなくする価格破壊行為だ。行うべきではない。」

 

個人的には、定期的にツイッターで見かけるうえに、それに対する反駁等も観測しない、割とTwitterの世論として「定説」と化した感じのある意見だと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。

 

特に、自分の推してる絵師さんとかがこの意見を強く持っていると、なんとなく「そうだそうだ!」という気がしてきませんか?

少なくとも、私自身は結構流されやすいので、割とそんな気もします。

 

また、私の知る範囲の日本VRChat界隈では、割と「3DCGモデラー様ヘ相応しい対価を」という非常に素晴らしい文化が根付いているので、特にこの主張が根強い支持を得ているような感じがあります。

 

さて。しかしながら、この意見自体はそれとして。

「作品の無償頒布」というものは、本当に負の側面しか持たないのでしょうか?

 

あまりに「悪いことである」と聞きすぎて、かえって疑問を持つに至り、とりあえず経済学の枠組みで考えてみようかという結論に達した記事がこれになります。

 

そして、結論から言ってしまえば、無償頒布は、今回使った経済学の理論モデル的に見ると、実は全体的には必ずしも悪いことばかりというわけではなさそうです

 

とはいえ、これは直ちにすべての無料頒布を支持するものではありません

例えば、著作権を無視した違法な頒布行為は、そもそも違法ですし、特段経済学的にも支持される状態ではありません

 

また、物事には複数の見方があるので、例えば経済学的に導かれる結論が社会学的にも正しいかと言えば、そうかは分からないです。

皆さんの感情と折り合うとも限りません。

 

なので、この記事は「そういうのを超越して経済学的帰結を優先せよ」というわけではなく、あくまで「経済学的にはこう言えるかも」というのを分析して、知的好奇心を満たしていただくことを一番の目的に、場合によって必要ならば、議論とか意見の基礎となる長所短所の分析とかの一端に使ってもらいたいという思いで書かれています。

 

ということで、本日は「作品の無償頒布」を、経済学的に考えてゆきます。

 

 

本論:経済学と無償頒布

第1章 「需要と供給」の復習と拡張

さて。本題に早速入りたいところですが、その前に。

皆さんは「需要と供給」の話を覚えていらっしゃいますか?

 

中学校の公民でやる話なので、覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、要するに「買いたいと思った人と、売りたいと思った人が合意できた値段で物が売られます」という話で、こんな感じのグラフが載ってると思います。

 

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需給の一致!!!

こんな簡単な図ですが、学問的には本来この前段階に「消費者理論」「生産者理論」というミクロ経済学のトピックがくっつきます。

 

そこにおいては、「何故このようなグラフが書けるのか」という話が、経済学部においては高校の数3から、大学一般教養課程レベルの「関数」と「微分*2」などを用いて。*3

また、大学院レベルにおいては非負のn次元ユークリッド空間が定義されたうえで、「対応*4」や、複数の「不動点定理*5」を用いてなされるのですが、今の話には関係ないので飛ばします。

 

いま重要なのは、ずばり、この図の概念を更に拡張することです。

 

まずは、需要曲線(今は簡単化のために直線だけど)を考えましょう。

さて、この需要曲線とは何だったでしょうか。

 

そう、「買いたいと思った人が払っても良いと思った価格を、高い順に並べたもの」です。

 

一方で、供給曲線は「売りたいと思った人が払っても良いと思った価格*6を、高い順に並べたもの」です

 

ところで、だとすると。

合意に至った価格(均衡価格)での取引って、合意した額ちょうどの人より左側に並べられてる人には、実はお得なのでは???

 

という考えが生まれます。

 

だって、左側に並んでる人たちは「めっちゃ高くても欲しい」人と「めっちゃ安くても売っていい」人たちですよね。

 

これのことを、経済学ではそれぞれ「消費者余剰(買いたい人が出せる額より安くて得た利益)」と、「生産者余剰(売りたい人が売れる額より高く売れて得た利益)」と呼んでます。

 

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部分均衡分析!!!

 

そして、この二つを合わせたものを「総余剰」と呼ぶのです。

概して、「皆のお得感」ってことですね。

 

ちなみに、こういう分析の仕方を経済学では「部分均衡分析」って呼びます。

 

第2章 部分均衡分析の応用例

さて、実はこの分析ってとっても大事で、いわゆるミクロ経済学を用いた「なんで消費税って経済学的にゴミカスなの?」みたいな理論とかに使われたりします。

(なお、筆者の知る限り、同じ経済学内でも実務的な面を持つ財政学系では、消費税の安定財源としての効果が強調されてるので少し論調が違う気がします。)

 

これを応用すると、他にも例えば「輸入自由化」が社会全体では得になる、ということが分析できます。

(国が輸入自由化を行う際には、もっと複雑に証拠とかをしっかり探してやってますが*7、概要としてはこんな感じです。)

 

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輸入自由化!!!

 

あれ…?

でもこれ、生産者余剰が小さくなって、灰色のとこに「損失」って出てない?

 

はい。そうです。輸入自由化は国内生産者に損失が出ます

誰でも何となく分かってますが、改めて露骨に経済理論的に見せつけられた形です。

 

しかし、それだけで終われば経済学は不要です。

是非、グラフをもう一度、今度は消費者余剰に注目して見てみてください。

 

あれ、損失以上に増大してる…?

そう、全体のお得感である総余剰は、差し引きすると増えているのです。

 

経済学は、ある意味残虐な学問です。日本のお米農家さんが、どのような思いでコメを作っているかなんてことは、理論上考慮することは出来ません。*8*9

しかし、お米が安くなれば、その分需要が増えて消費者が大きく得をする結果、全体は得をする…。そんなことが理論的に示されます。

 

さらに、本来はここで例えば「分かった。お米農家さんには、得した消費者の連中から、せめて減少分と同じだけのお金を増税で分捕って補助金出すよ。」みたいなことも出来て、国同士でFTA(貿易自由化協定)が結ばれるときとかに行われたりもします。

ただ、ちゃんと補償がされるかも分からないし、どう見ても割を食う立場の生産者は大体の場合反発することになります。*10

 

大分話が逸れましたね。すいません。余談が過ぎました。

ただ、これを見て「あっ」となった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

そう。無償供給に関する分析も同じようにすることが出来るのです。

 

第3章 無償供給の部分均衡分析

第1節 プレイヤー(消費者)側の視点

さて、では実際のところ、無償配布を行うとどうなるのでしょうか。

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無償供給!!!

まず目立つのは非常に大きくなった消費者余剰です。滅茶苦茶増えてます。

プレイヤーの皆さんは一目瞭然、お得ですね。そう、VRChatには政府が無いので誰も大々的に代弁しませんが、当然プレイヤー的には「お得」になります。

 

特にVRChatでは、多くの場合クリエイター様もまた、プレイヤーの一員です。

「作って利益だけ吸い取ってオシマイ!」というケースは少ないと思われます。

 

つまり、この枠組みに従うなら、一個人としてのクリエイターさんも、例えば気に入った家具や衣装、U#codeとかを他人から無料で入手出来たりという形で、何かしら得をしていることになります。

 

また、注目に値するのは、需要曲線と供給曲線の交わるポイントが右にズレていること、つまり「全体の供給量は増えた」ということです。

 

VRChat的な文脈でとらえるなら、巡り巡ってワールドの供給数やアバターの供給数を増やすことになるので、界隈全体は活発になることでしょう。

 

つまり、貴方が「プレイヤー」として、自らのVRChatでの体験を趣味として消費する存在、あるいはVRChat社会全体の発展を強く望み、利益度外視で界隈を拡大したい存在なら、無償配布は願ったり叶ったりでしょう。

 

第2節 プロクリエイター(生産者)側の視点

しかし、忘れてはいけません。

実際のところ、プロクリエイターによる供給が減っているのも、この図からは読み取れます

 

そう。神クリエイターさん達の発言は、経験則から導かれた経済学と矛盾しない結論を、確かに内包していると言えます。

「作品を無償頒布する行為は、クリエイターが正当な対価を受け取れなくする価格破壊行為だ。行うべきではない。」

 

ただ、「正当な」対価という概念自体は需給の一致を重要視する現代の主流派経済学上では基本見ない単語なので、正確には「価格の低下を引き起こし、プロクリエイターに還元されていた利益が減少する」という結論が経済学的考察と一致する、という話です。

 

なので、貴方がもしもVRChatでの販売を商業活動の一環、つまり本業とか副業として行っていて、作品の対価として利益を受け取ることに主眼を置く存在であるならば、無償供給の効果が目的である場合を除いて、無償配布はするのは自殺行為であると言えるでしょう。

 

第4章 カルテルとギルド、そしてマルクス経済学

ここまでで大よそ分析自体は終わっていますが、少し蛇足を含みつつも、解明されなかった「正当な」対価という概念と、たまにインターネット上で見かける「正当な対価を呼びかける行動」について考えてみましょう。

 

第1節 カルテルとは

まず、正当な対価を呼びかける運動についてです。

これが本当に市場的に適正な価格なら影響は少ないのでしょうが、例えば市場で提示される価格を上回っている状態で、それを下回る場合は販売を止めるとしましょう。

 

すると、下図のように全体の利益と販売量を減らして、自らの利益を消費者から分捕る構造が出来上がります。

 

これを経済学では1社で行うのを「独占」

少数の生産者で示し合わせて行うことをカルテルと呼びます。

 

カルテルは、販売量や価格を示し合わせて維持し利益を囲い込む行動として、現代経済学では嫌われる存在です。

なので、いわゆる「独占禁止法」などの根拠も、この辺りにあります。*11

 

ただし、基本的に経済学的な独占やカルテルが想定しているのは企業による市場の独占行動で、正当な対価を規定して求める行為自体が、直ちに独占につながるかと言えば、怪しいような気もします。*12

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参考:カルテル

 

第2節 ギルドとカルテル

一方で歴史上、カルテル自体は「競争に耐えられないほど生産力の低い社会」においては有効活用され、特に中世ヨーロッパ経済などでは普通に行われていました。

 

例えば、皆さんはもしかすると「ギルド」という単語を御存じかもしれません。

そう、ファンタジー小説とか、ゲームとかしてると良く出てくるアレです。

 

ファンタジー系ではよく「冒険者ギルド」とかが存在して、ならず者のたまり場とかになってるアレですが、実際のギルドとは「職人組合」のようなもので、このギルドこそ、まさにカルテルを行っていたのです。

 

激しい競争で価格が下がり続け、生産者が疲弊するとたちまち死に直結する社会では*13生産の安定性こそが重要だったので、親方たちに生産量や価格の合意を作らせ規制した、ギルドの枠組みは非常に重要な物だったのです。

 

つまり、個人的な意見を挟むなら、得られる結果は同じでも、正義非正義とかは状況とか時代とか、いろんなものに左右されるということです。

 

第3節 マルクス経済学と正当な対価

また、「正当な対価」という概念そのものについて考えてみましょう。

 

古典派経済学を批判しつつ、古典派経済学に内包された労働価値説を厳密に確立した伝統的なマルクス*14経済学*15の枠組みでは、労働時間で商品価値が決まり*16、そこから搾取の概念等が打ち立てられたりします。*17

そのため、「正当な*18対価」というものが存在すると言えるかもしれません。

 

ただし、労働価値説自体は現代経済学で主流な学派である「新しい新古典派総合*19」では採用されていない学説であることに留意する必要があります。*20

 

第5章 著作権と無料配布

一方で、上記の議論を見ると「え、それなら全部著作権無視して無償配布にしてしまえば?」みたいなことを言い出す人が出てくるのですが、少し問題が違います。

 

上記の理論では、あくまで市場経済的な「需給の一致」による競争の結果としてプロクリエイターの利益が減少しているだけで、減ったとはいえ利益は確保されており、一部の「割に合わないな…」と思ったプロクリエイターが休止・撤退した状態です。

 

しかし、著作権法違反で利益そのものを破壊してしまうと、元々無償のものや既に作られたもの以外での供給が行われなくなり、上記の図は破壊されます。

 

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著作権法違反で破壊された市場

 

また、上記の考えを逆手にとって、逆にどれだけ消費されてもコストが固定、あるいは支払い済みのものに関しては、利益さえ還元できれば良いので、需給の一致を目指すのではなく、消費者から定額の料金を取ってクリエイターへの還元に回し、更に需要を喚起する方法も存在します。

 

そう、定額制音楽サービスのSpotifyや、定額制動画サービスのNetfrixです。

 

第6章 理論経済学の限界

という感じで、無償配布に関してミクロ経済学による理論分析を行ってきたわけですが、科学全般に言える話、当然理論は万能ではありません。

そのことを例を用いて示しましょう。

 

例えば、皆さんが幼い女の子、それも幼稚園くらいの本当に幼い子に突如プレゼントをあげなければいけなくなったとき、皆さんは何をあげますか?

 

推測ですが、多くの人はパッと、ぬいぐるみとか、お花とか、とにかく何か可愛らしいものを考えたと思います。

 

しかし、もしもその女の子がバリバリのお兄ちゃんっ子で、戦隊ものヒーローとかカッコいい物にしか興味が無い子だったら、それは通じますか?

 

答えは多分ですが、否となるでしょう。

 

普段私たちは意識しませんが、そう。

実はここにこそ、理論と前提があるのです。

 

例えば、理論という意味では、「幼い女の子は可愛いものが好きだ」というのが理論です。

恐らく2021年現在、ジェンダーレス化が進展する社会においても、今のところ社会一般には信じられている、強力な理論であると言えるでしょう。*21

 

そして、「相手の女の子は恐らく社会的に多数派の女の子だ」というのが前提です。

これにより、初めて「恐らく可愛いものをあげれば、相手の子は喜ぶだろう」という推論が成立します。

 

しかし、先の事例では、女の子はバリバリのお兄ちゃんっ子で、可愛い物には興味がありませんでした。

つまり、立てた前提があまりにも破綻していれば、理論は上手く通用しないのです。

 

では、理論を前提に併せて改正する?

 

それは無限の追いかけっこです。

考えてみてください。場合分けが果たして幾つ必要になるでしょうか。

 

理論というのは、複雑すぎる現実を、ある程度簡易に分析するための道具であると言えます。

 

例えば、我々は水を1Lで1kgと覚えていますが、これも本当はほかの温度だと厳密には違うものを、簡単化のために固定して計算したりしています。

 

つまり、理論そのものを現実に沿わせ過ぎてしまうのは、ナンセンスなのです。*22

 

そして、思い返してみると、実はここまでにやった分析にも隠れた前提があります。

 

例えば、先の分析では実は商品は均質な性質であると仮定されており、価格によってのみどれを選ぶかが決まります

 

つまり、途中でコメ農家さんの話を出しましたが、お米にもブランドとかはあるものの、スマホみたいに滅茶苦茶いろんな機能があって、これには無線給電機能があるけどカメラの性能がなぁ…、みたいなのはありません。

なので、世の中には、けっこう値段だけでコメを買っている人というのは居ますよね。

 

そういう場合に一番適した分析法なのです。本来は。

 

一方、先のスマホや、VRChatの特にアバターみたいな「好みかどうか」が滅茶苦茶左右する商品のことは、経済学では「差別化された財」と呼び、どのくらい価格で需要が変わるか、更に厳密に分析するためには、価格代替性の導入など様々な新しい前提の導入が必要になります。

 

しかし、それを始めると、残念ながらとても複雑になるので、余暇の時間では到底済みません。

 

また、今回の分析の場合は、ここの前提の苦悩が理論モデルの結末を大きくひっくり返すほどの影響を及ぼすかと言われると、代替性を考慮した2財モデルでの比較静学分析でも似たような結果になりそうだった*23ので、あまりそういうことは無いとは思います。

 

それでも、本質的な限界があることは、重要な問題の一つです。

 

また、経済理論モデルに含みようのない要素。

例えば感情がどれほど行動に影響するかとか。

経済学では人間は合理的に行動するのを仮定している*24ので、その辺は含みようがありません。

 

そのため、あくまで経済学による分析というのは絶対的なものでは無く、合理的で、論理的な方法に沿った意見の1つではあるものの、それ以上ともなり得ないと言えるでしょう。

 

 

結論

以上より、今回の経済学を用いた、とある理論モデルから出た結論をまとめると

 

①貴方がただのプレイヤー、あるいは例えクリエイターとして活動していても、同時にプレイヤーとして、VRChatで他人の作品が無償で使えると得をする度合いが強い存在である場合。

あるいはVRChat社会全体の発展を強く望み、利益度外視で界隈を拡大したい存在なら、無償配布は向いている手段である。

 

②貴方が、もしもVRChat向けの作品の販売を商業活動の一環、つまり本業とか副業としてお金を稼ぐために行っていて、作品の対価として利益を受け取ることに主目的を置く存在であるならば、無償配布はするのはやめた方が良い。

 

「正当な価格」というものを労働時間等で決めようとする論理は、古典派経済学やマルクス経済学に近いが、現代経済学の主流派では否定される。

また、あんまり市況に沿っていない定価化を進め過ぎると、カルテル的に、逆に市場から不当に利益を吸い上げる存在になってしまいかねない可能性がある。

 

作者本人が作品を無償配布するのではなく、違法に著作権等を無視して行われる無償配布は、創造のインセンティブを失うので、社会全体の利益を増やさない。

 

経済理論を用いて以上のように結論付けたものの、経済理論自体は万能ではなく、作り手の感情等を考慮できない他、一部の仮定があまり現実的でないため、上記は論理的な意見とは言えるが、絶対的なものでは無い。

また、同じ経済モデルでも、前提が変わったり、別の理論を用いると、違う結果が出る可能性も否定されない。

 

ということが言えるという結論を得ました。

 

 

付論

本論で語らなかった要素

① タダでやった仕事は手抜きになりやすい?

この辺はおそらく心理学等の要素も強そうなので、必ずしも経済学のみで語れるとは思いません。

 

ただ、少しずれている気もしますが、経済史的にも高価で高度な手工芸品より安価で低質な工業製品が勝つケースとかはいくらでもありますし、高価なモデルより低質で安いモデルが普及して技術が廃れる、みたいなのは有り得そうな話だとは思います。*25

 

その場合、ユーザーが求めていたレベルが想定より低かったので、結局、値段の安さがもたらす効用(満足度)が、技術力の産む効用を上回っていたせいで、代替され(買い替えられ)てしまったと言えます。

 

② 3DCG市場全体への影響

よく「不当に安い価格を提示された。安売りする奴のせいだ!」みたいな話も聞く気がします。

 

これに関しては、恐らく本文中と同じ理由や、付論①と同じ理由で語れると思います。

 

つまり、既存のクリエイターさんの市場は、本文中の無料配布の代わりに、より安い労働力や付加価値性による低コストから安価に提供される商品が入ることで、市場自体は拡大しても、既存のクリエイターへの注文量は実際に減っている可能性。

あるいは市場価格が下がりやすい価格を提示されている可能性があります。

 

ただ、これには恐らく付論①と似たような条件が挟まります。

 

要は、既存ユーザーが、値段が低い代わりに低品質であることに耐えて注文先をシフトできるかとか。

 

あるいは、その他の取引コスト。

つまり、専門の商売でやってないので時間がかかるとか、商業上で信用が無く海千山千とも分からない相手と取引しても良いと思えるかとか、そういう条件が挟まることになると思われます。

 

 

感想

という感じだったのですが、いかがでしたか?

 

正直筆者は小心者なので、「こんなことを書いて、滅茶苦茶怒られたらどうしよう」と心配してます。

 

ちょっとセンシティブな話題なので、なるべく中立的に書いたつもりではあるのですが、やっぱり意図しないとこで意図しない受け取り方が発生して、怒気に触れたりしそうだなぁ、と思ったりもしてます。

 

なので、一応公開前に知り合いのクリエイターさん数名*26に見せてみて、ちょっと御意見を伺ってみることにしました。

そして、いただいた御意見に沿って、可能な限り修正を施した形で公開することとなりました。

 

また、個人的には、こんなお気持ちが飛び交いそうな文章では無くて、本当は皆が幸せになりそうな記事を書きたいという思いが強いのですが、残念ながら、今のところはそうもいっていないという感じです。

 

そういう意味で、お気持ち表明でTLが荒れるのを防ぐために個人的に読者の皆様に控えていただけると嬉しいなと思うのは、この記事を読んで即「だから無料配布は云々」みたいな、無料配布の是非や、賛否に関してツイートをすることです。

 

もちろん、何か既に争いが起きている時に御自分の意見の論拠に使われるですとか、読んで「つまらなかった」や「前提がこうあるべきなので直して分析するとこうなるはず」*27みたいな、文章自体の感想を呟いたりしていただくのをやめていただこうという話ではありません。

 

ただ、この文章は火種を産みたくて書いたわけではなく、あくまで当初書いた通りの疑問から書いたものです。

 

そのため、無料配布を推進すべきだとかしないべきだとか、筆者の個人的な意見に近い要素は排して、むしろ可能な限り中立的に、無料配布が理論上でどのような効果をもたらし、どういう立場の人がどういう行動をするのが得になりそうかを、分析する形をとりました。

 

ですので、この文章が読者の皆様のTL上で、デスマッチを引き起こす最初のゴングとなりませんよう、上記のように、賛否等の争いになりそうな部分の御意見は、心の中に控えていただくようにお願いするのが一番ではないかという結論に達しました。

 

御協力いただけましたら、幸いです。

 

湿っぽい感じになってしまいましたが、まぁ、やっぱり楽しい話題が書きたいですね。

なので次は「3DCGモデルのイイね!の数に値段とかタグがどのくらい影響するのか」とか、もうちょっと面白そうなのでかけたら良いな…、と思います。

 

ちなみに個人的に一番面白かったのは、フレンドのS君の「分析も無料なの...。僕は気になるけど、君はその分の時間と知識を使うし、良く分かんないよ」*28という言葉でした。

 

私は特に大した学識があるでもなく大した人間でもありませんが、もしも少しでも持っている知識が、何か皆さんのお役に立ったり、知的好奇心を満たせたりすれば幸いです。

 

皆さんの幸せを願って。

 

朱玲華

 

参考文献

泉水成美・柳川隆(2008)「プラクティカル産業組織論」,有斐閣アルマ

神取道宏(2014)「ミクロ経済学の力」,日本評論社

木村靖二・佐藤次高・岸本美緒(2012)「詳細世界史」,山川出版社

コトバンク「労働価値説とは」

西村孝夫(1969)「<研究ノート>続インド社会論 : マルクスの場合」,大阪府立大學經濟研究,14(4),p.21-32

野原慎司・沖公裕・高見典和(2019)「経済学史」,日本評論社

ロバート・ギボンズ(1992),福岡正夫・須田伸一訳(1994)「経済学のためのゲーム理論入門」,岩波書店

 

*1:学説は、学会発表や論文の査読等での厳しいふるいにかけられ、かつ複数の検証論文や後追い論文を経て、初めて定説化します。

*2:ミクロ経済学では最適化問題を解くための偏微分や全微分が多い

*3:当然ですが、社会科学である経済学は日本では文系に分類され、文系には数学が苦手な人が多いので、筆者の所属先でも、多くの友人が狂乱しているのを見ることになりました。

*4:correspondence。関数の上位概念。

*5:条件次第で解が一点に定まることが示され、最適化問題を解けるようになる。

学部課程では図のみで示されることが多いナッシュ均衡などで使われる

*6:学問的には、確か人件費などを含む、生産を続けられる最小限のコストとなる

*7:エビデンスに基づく政策決定、Evidence Based Policy Making、略してEBPM。

近年政策決定の場で流行ってる横文字。

*8:そして、個人的にはそんな経済学の行き過ぎた面を見事に体現した創作上の人物こそ、幼女戦記のターニャ・デグレチャフだと思います。詳しくは「幼女戦記 シカゴ学派」で検索してください。

また、シカゴ学派といえば、シカゴ学派成立前後のアメリカ経済学の世界は、ベトナム戦争の影響を費用便益分析し、要するに人の命を平然と金銭に換算した上で肯定していたという、極めてサイコパスな話もあります。

*9:ただし、経済学は残酷な面も持つ学問ですが、経済学者の理想は "Warm heart, Cool Head"、つまり暖かい心と冷静な頭脳であると、偉大な経済学者マーシャルの言葉が引用されることが多いです。

また、彼が必ず産業革命期のロンドンのスラムに学生を連れて行ったように、いかに貧困を撲滅するかなども、同時に経済学の極めて重要なテーマと言えます。

*10:この先は個人的な解釈かつ、毒気が強いので本文からは外しましたが、続きとしては以下のような感じです。

反発した生産者は、往々にして、自己の代表団体、つまりコメ農家さんならJAとかを使って、当然反対キャンペーンを繰り広げます。

一方で、消費者側には強い代表団体が存在しないので、国民の選んだ議院内閣が支配している政府が代弁します。

全体のために一部が犠牲になるというのはよくある話で、それが必ずしも正しいとは個人的にも思えませんが、その辺の人間社会のしがらみや、正義不正義を民意に基づいて調整するのは、政治の役割です。

なので、国会で議論という名の調整が行われます。

ただ、政府は代議士として消費者を代弁する存在であると同時に支配者でもあるので、国民はだいたい疑いの目を向けます。

そして、ニュースは権力に懐疑的な目を向けて、現状が行き過ぎで無いかを考えようとする第四権力なので、どうしても批判的に報道しがちです。

更に、ニュースを見た世論が湧きます。

すると、最後にはTPPみたいな大騒動になります。

誰かの悪意が働いたわけでもないのに、世の中は世知辛いですね。

*11:ちなみに、カルテルを政府事業への入札等で行うことを一般に「談合」と呼びますが、筆者の知る限り、経済学ではあまり区別されません。

*12:ちなみに、この辺の独占とかの分析には、他にも寡占市場での数量競争であるクールノー競争やシュタッケルベルク競争、価格競争であるベルトラン競争がありますが、これらはあくまで不完全な競争市場での均衡なので、今回は詳細は省きます。

*13:例としては産業革命後、イギリス製綿布に伝統的綿布が敗北したインドの様子を評した「木綿織布工たちの骨はインドの平原を白くしている」という世界史にも登場する言葉が分かりやすい。豊かな近世インドですら工業製品の市場競争力に敗れればその有様なので、ましてやさほど豊かでない中世ヨーロッパは察するものがある。

*14:ちなみに奇妙なつながりですが、カール・マルクスは注13のインド経済の破滅を自身の文章に引用しています。

そのため、何故かネット上では彼の言葉とされることもありますが、恐らく誤りでしょう。

詳しくは西村(1969)「<研究ノート>続インド社会論 : マルクスの場合」p31を読んでください。

*15:古典派経済学を批判的に継承した、という表現がよく使われる。

つまり、マルクス派は古典派経済学を批判しているものの、同じ手法や枠組みを割と使っている。

なので、時によっては経済史学上、マルクス経済学自体も古典派経済学の一派と見なされる

*16:マルクス経済学を、イデオロギーの一部ではなくあくまで学問の1つとしてとらえる、つまりイデオロギーから社会科学への陳腐化に成功した宇野学派のS教官の講義を受けた時は、同時に労働の使用価値の話をしていて剰余価値という別の概念も立てていました。

*17:野村・沖・高見(2019)に従うならば、マルクス自身も剰余価値から搾取を導いています。

また、マルクス自身は搾取の概念を立てたものの、これを不当とするどころか資本家の正当な権利としているのは、意外な話かもしれません。

*18:しかも、この単語は正義不正義的な概念を含んでいる、つまりイデオロギー的側面を持っていることを勘案すると、イデオロギー的な部分も含むマルクス「主義」経済学との相性は抜群と言えるかもしれません。

ただ、「マルクス主義経済学」という呼び名は、先の宇野学派からのイデオロギーを含む旧来のマルクス経済学への呼び方なので、本物のマルクス主義経済を信じる人に言うと、割と怒られます。

*19:New Neoclassical Synthesis。

この名前は主流派経済学が 古典派 → 新古典派 → 新しい古典派 → 新しい新古典派 と発展したためつきました。

厳密には、途中に、その名を知らない経済学徒は居ないケインズ学派や、幼女戦記で有名になったシカゴ学派等が挟まります。

それにしても、やっぱり変な名前だよね。

*20:なので、中国みたいな共産主義国家では数理マルクス経済学という数理手法を用いた分析ツールとして現役ですが、残念ながら日本などでは、筆者の知る限り、現代的な数理分析に用いられることはほぼ無いと思われます。

ただ、概念的な学問としては面白いと思います。特に、古典経済学と組み合わせた経済原論として見る場合は、非常に。

*21:ジェンダー論に詳しい人に滅茶苦茶怒られそうだけど許して。

*22:余談だが、よく機械学習やAIで発生する数値(定量)的な過剰適合の定性版が発生すると言うと、情報系の人には理解しやすいかもしれない

*23:疲れたので詳細を省きます。

希望があんまりに多いようなら、また今度書くなりします。

*24:実は、この仮定と現実を擦り合わせようと、心理学的分析を加える行動経済学という分野すらあります

*25:もちろん細かいことを言い出せば、工業製品には製品の質のバラツキの小ささとか、様々な利点が他にもありますが。

*26:ご迷惑になるので個人名は出せませんが、プロのクリエイターさんとか、皆知ってる人気のアバター売ってる人とか

*27:そんなん書いてくる人は経済学生だけだと思いますが

*28:特定を避けるため、内容に影響しないと思われる範囲で少し原文を改訂。

「差別」の定義とVRChat ~ JPHub様の規制を参考事例に

(2021年06月16日 初稿)

(2021年11月21日 改訂)

 

お断り

この記事は、専門家ではなく、経済学を専攻した一般人によって、一般教養の範囲の法学等の知識を用いて書かれたものです。*1

 

 

はじめに

はじめまして、朱りんふぁです。

中華風のハンドルネームだけど、日本人です。

 

近日、VRChatの界隈で「JPHub」様という日本人向け(現在は日本語話者向け)のワールド*2で、日本語のテストによる利用制限をかけたことが大きく話題になりましたよね。

 

大きく話題になり過ぎて、それまで色々な形でVRChat内に存在していた不満や軋轢が噴出してくっついた結果、ひどく炎上してしまったように見受けますが、個人的には平和に暮らして居たいので「何だかなぁ」と思いながら、基本的に荒れるさまを傍観していました。

(あと、それに伴って発生した、ワールドに関する話を超えた一部の本物の排外主義的な反応は、ちょっぴりショックでした。)

 

なので、あんまり携わりたくないという思いが強いのですが、その一方で、少しだけ気になったことがあります。

 

それは、「これは区別であって差別ではない」というようなコメントです。

 

確かに、我々が日常で日本語を使いながら暮らすうえで「差別」と「区別」は同じ意味の単語ではないように見受けます。

特に、母語として日本語を使う人の場合、わざわざ定義をつけることなく、全く意識せずとも何となく使い分けられるので、意識することはあまり無いような気がします。

(正直ボクもそうです。)

 

しかし、よく考えたら「差別」の定義とは一体なんなのでしょうか?

 

タイムラインには様々な意見・批判・賛同・罵倒が流れてきましたが、よく見ると「差別だ」「差別じゃない」と言いつつ、何だか「差別」の定義自体がズレているようにも見えます。

その一方で、根本的に「差別」とは何かを論ずる人は居ないように思われました。

(もちろん、著者のタイムラインに流れてこなかっただけの可能性もありますが。)

 

なにせ、十人十色という言葉もあるくらいです。

多分誰しも、生きていれば意見の一つや二つはあるのが当然で、それはこの多様な社会の実現に非常に重要なことと思われますが、しかし、もしも「議論」をする上で「前提」が食い違っていたら、もはやそれは言葉のキャッチボールではなく、言葉の殴り合いではないでしょうか。

 

これでは、ボクらはお互いに殴り合い、傷つき合い、そして消耗するだけです。

古典的な青春マンガの一ページと違って、今時は殴り合ったら「そうか、お前はそう考えて生きてるんだな!」と相互理解や友情が深まるのではなく、「は、何言ってんだコイツ。関わらんとこ」となりがちです。

地縁・社会的関係により強固に結ばれていて、離れたくても離れられなかった旧来の社会と違い、僕らの生きる現代情報社会の、特にネット上の縁の脆さは想像以上です。

 

そのためにも、僕らはきちんと話し合うために、「差別」という言葉の定義を探さなければなりません。

しかし、言語学者でもない僕は、果たしてこれをどこから見れば良いのでしょうか。少し悩んでしまいますね。そもそも、言語学社会学・法学とかで色んな定義がありそうな気もします。

しかも、VRChatの運営がアメリカなことを考えると、万が一自分が差別だと思わなくても彼らの基準で認定されてBAN等を喰らったりしたくないので、なるべく日本でもそうだと納得できつつ、国際的にも通用しそうなものが良さそうです…。

 

と思っていたところで思い出したのが、こちらの記事

当時、東京大学で特定短時間勤務有期雇用教職員だった方の発言が問題になり炎上していた時に、一橋大学の博士課程の方が書かれた文章で、人種差別撤廃条約」なる日本でも国際社会でも通用しそうなものから「差別とは何か」等に関して論じています。

 

これを丸投げしようかとも思ったのですが、問題の性質が雇用とかで大きく違うことや、中身のわかりやすさに対してタイトルとかが結構キツいことから、ちょっとそのままは難しいように思われました。

でも、人種差別撤廃条約からなら、少なくとも「法的な」観点から差別に関して考えられます。(詳細は後述)

 

あと、もう一つ。

これはもう少しフワッとしたものですが、国際連合による説明も、有名なものがあるようです。残念ながら国内の定義ではありませんが、日本も加盟国の一員なので参考にはなると思いますし、一応補足的に見ておきたいところです。

 

ということで、前置きが長くなりましたが、今回は「人種差別撤廃条約」における「差別」の定義と、国際連合による定義を見ていこうと思います。

 

 

本論:差別を考える

人種差別撤廃「条約」って何?

そもそも、人種差別撤廃条約とは何かですが、こちら正式名称を「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」と言い、1965年に採択され、日本も1995年に加入。現在、一部の留保・不宣言事項を除いて発効しています。*3

 

「条約」と言うと、基本的にはニュースで「貿易条約が締結!」みたいな話を見ることが多いと思うんですが、僕らの生活には間接的に関係があっても、直接はあんまり関係なさそうに感じるかもしれません。

 

でも、実は「条約」は、日本国憲法において「憲法」と「法律」の中間に位置付けられる存在です。

また、日本では、条約は公布と共に国内法として受容され直ちに法的効力を持つとされていて、これを専門用語で「一般受容方式」と呼ぶそうです。*4

なので本当はちょっと違うけど、分かりにくかったら、実は「法律」みたいなものだと考えてもらうのが近いかもしれません。(専門家には怒られそうだけど。)

 

つまり、憲法とか法律と同じようなものってことは、例え「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」みたいに有名無実化してたとしても、一応法的拘束力があるということですね。

 

人種差別撤廃条約の内容を見る

まずはざっくり全体から

さて、条約が実は法律とかに近しい存在だとわかったところで、早速中身を見てみましょう。

とはいえ、全部見るととてつもなく長いので、まずは一番僕らに関係ありそうな差別の定義の部分を抜粋してみます。

 

第1条

1 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。

 

第2条

1 締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため、

(a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する。 

「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」, 外務省 2021年6月12日閲覧)

 

ちょっと堅苦しいですね。

 

まあでも、なんとなく「人種・皮膚の色・血縁・民族・種族とかで『区別』・排除・制限・優先するのを、公的生活の場で行って人権とか基本的自由を制限する目的や効果のあること」を、個人集団問わず禁止している、みたいな感じなのは分かります。

 

ここで気になるのは「区別」の語が出てきたことです。この文言に従うなら、「区別」の一部は「差別」に内包されることになります。

つまり、「差別じゃなくて区別だ」というのは、「区別」の方法・目的・効果などによっては詭弁だということになります。

 

しかも、先の記事でも強調されてるのですが、「効果」があればそれは差別になるようです。そう、必ずしも意図しなくても「効果」が出てしまうと「差別」にはなりうるようです。

 

差別って、意外と厳しい定義があったんですね。

 

それにしても、なんとなくは分かりましたし、重要そうな事実は幾つか分かりましたけど、「差別」の定義に関して悩んでたのに、よく読むと良く分からない言葉が沢山あります。「公的生活」とか「種族」とか。

特に、今回この記事で扱っているのは「差別とは何か」ですが、書くきっかけの一つであり、例として扱っている、JPHub様で採用された「言語的な制約」に基づく「ワールドの利用の制約」に関してなどが(初期の居住地制限は基本扱わない)、これでは直接は分かりません。

 

しかも、憲法や法律って解釈学で、それを巡って政府と個人がよく裁判所で「違憲だ!」「違憲じゃない!」って争ってたりする領域ですから、可能な範囲で自己流の解釈は避けた方が良さそうです。弱った…。

 

しかし、そこは流石に想定のうち。

外務省のHPにはきちんとQ&Aがついてるのでした。

 

「民族的若しくは種族的出身」の定義

 

Q1 この条約の対象となる人種差別とは何ですか。

A1 この条約の対象とする人種差別については、この条約の第1条1において、「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するもの」と定義されています。
 この規定において差別事由とされている「人種」、「皮膚の色」、「世系」及び「民族的若しくは種族的出身」については、この条約の適用上、必ずしも相互に排他的なものではありません。この条約の適用上、「人種」とは、社会通念上、皮膚の色、髪の形状等身体の生物学的諸特徴を共有するとされている人々の集団を指し、「皮膚の色」とは、このような生物学的諸特徴のうち、最も代表的なものを掲げたものと考えられます。また、「民族的若しくは種族的出身」とは、この条約の適用上、いずれも社会通念上、言語、宗教、慣習等文化的諸特徴を共有するとされている人々の集団の出身であることを指すものと考えられます。更に、「世系」とは、この条約の適用上、人種、民族からみた系統を表す言葉であり、例えば、日系、黒人系といったように、過去の世代における人種又は皮膚の色及び過去の世代における民族的又は種族的出身に着目 した概念であり、生物学的・文化的諸特徴に係る範疇を超えないものであると解されます。

「人種差別撤廃条約 Q&A」, 外務省 2021年6月12日閲覧)

 

なるほど、「また、『民族的若しくは種族的出身』とは、この条約の適用上、いずれも社会通念上、言語、宗教、慣習等文化的諸特徴を共有するとされている人々の集団の出身であることを指すもの」ですか。お堅い…。

 

よく見たら「言語」が入っていますね。

 

しかし、「日本語を共有するとされている人々の集団の『出身』」かどうかと、現時点で「日本語を使用言語としているか」は、必ずしも一致するとも限りません。

 

つまり、「外国人に対する制限」は「民族的若しくは種族的出身」に明白に引っかかるのですが、「非日本語話者に対する制限」を実施した場合に関しては、もしも「出身」の一言が無ければ即座にアウトになるところだったものの、ギリギリで踏みとどまっている感じがあります。

 

(もしも、この文章に関して専門家の方で「抵触する可能性が高い」と思われる場合は、是非この記事を引用して補足の記事を書いたうえで御連絡ください。忙しいので遅くなるとは思いますが、リンク等を掲載します。)

 

「公的生活」とは

一方で、「公的生活」に関してはどうでしょうか。

 

Q3 第1条の人種差別の定義にいう「公的生活」とは、どういう意味ですか。

A3 「公的生活(public life)」の意味とは、国や地方公共団体の活動に限らず、企業の活動等も含む人間の社会の一員としての活動全般を指すものと解されます。つまり、人間の活動分野のうち、特定少数の者を対象とする純粋に私的な個人の自由に属する活動を除いた、不特定多数の者を対象とするあらゆる活動を含むものと解されます。

「人種差別撤廃条約 Q&A」, 外務省 2021年6月12日閲覧)

 

こちらは、まだ分かりやすそうです。

パブリックワールドはどう考えても「特定少数の者を対象と」しているとは言えなさそうですし、そもそも名前からして「パブリックワールド」です。

つまり、「フレンド」で建てられたイベントとかなら別として、「パブリックワールド」自体は、公的生活の方に該当しそうです。

 

「人権及び基本的自由」

また、外務省のQ&Aは以上ですが、第一条で妨げたり害されたりしてはいけないとされるものは、「政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使すること」とされています。

一体、この「人権及び基本的自由」とは何なのでしょう。

 

Q&Aが無いので、仕方ありません。論文とか専門家による記事を参照しながら考えてみましょう。

 

まずは、「基本的人権」って単語を聞いて、何を思い浮かべられますか? 

目ざとい方は、「基本的人権」と聞いて即座に憲法を思い出されるかもしれません。中学校の公民の授業とかでやりますよね。

 

そして、実際に条約は憲法の下位の存在なので、この「人権及び基本的自由」は、基本的には日本国憲法下で保証されている「法の下の平等」とか「表現の自由」とか「言論の自由」とか、そういう物になると思われます。

 

なので、例えばJPHub様の件で考えると、「制限」されているのは「言語」と「ワールドの(一部の)利用」ですが、日本国憲法に「言語の自由」という独立した項目はありません。

実際に、言語権は少し弱い概念で、日本国内では少なくとも確立できていないようです。*5

 

他にも、少し怪しいのは、日本国憲法第13条に

 

十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

「日本国憲法」, e-Gov法令検索 2021年06月15日閲覧)

 

とあることが何処まで「自由」を規定しているかですが、この部分の「自由」の解釈には多種多様な領域での自己決定権を保護する一般的行為自由説と、人格的生存に不可欠な要素に限る人格利益説があり、通説は後者だそうです。*6

それを踏まえると、やはり直接は影響しないと言えそうです。

 

そもそも、「人権」や「基本的自由」は、個人間というよりも国家対個人を想定して作られている部分が大きいので、もちろん個人間に適用されるものもありますが、少しこのような事例には弱い気もします。

 

なので、この部分に関しては、概念的な「差別」の定義を見るという意味では少し弱くて、今参照しているのが「条約」であることによって、法的に禁止されるべき部分としての実情に引っ張られていると言えるかもしれません。

(多くの人や団体が人種差別撤廃条約と「差別」を説明する際に、曖昧に此処を「自由」程度に濁してしまうのも、その点が理由かもしれません。)

 

しかし、上記よりも不味いことに、人種差別撤廃条約には、具体的に

 

第5条

 第2条に定める基本的義務に従い、締約国は、特に次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種、皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。

  ((a)~(d)中略)
(e)経済的、社会的及び文化的権利、特に、

  ((i)~(v)中略)
(vi)文化的な活動への平等な参加についての権利
(f)輸送機関、ホテル、飲食店、喫茶店、劇場、公園等一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利

「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」, 外務省 2021年6月12日閲覧)

 

という部分があります。

 

(e)(vi)に「文化的活動への平等な参加についての権利」と、(f)「一般大衆の使用を目的とするあらゆる場所またはサービス」が入っています。

特に、(f)には「飲食店」や「ホテル」などの私企業も含まれていることから、公的な機関のみならず、一般大衆を対象とした私的なサービスも含まれるようです。

 

この一般大衆とは、他の法律の解釈からの援用ですが、基本的に不特定多数を指し、その判断基準は「個人的つながりのない」「ある程度以上の複数」を指すらしい*7ので、これに従うと、VRChatのPublic化ワールドの利用者は全てが知り合いではなく利用者も少なくないので、確かにワールドの利用の制限は(f)に該当することになりそうです

 

条文を見ると「次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること」が約束しなければいけないものの一つとされているので、つまり、しっかりと享有されるべき人権の例が述べられていて、憲法で足りない部分が追加されています。

したがって、「ワールドの利用の制限」という形態は、人種差別撤廃条約上においては「人権及び基本的自由の享受の妨げ」に抵触する可能性が高いと考えらえます。

 

ちなみに、よく見ると続きには、もう一つ約束せねばならないものとして「すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障すること」が挙げられています。

法の下の平等自体は、日本国憲法にもある概念ですね。

 

ただ、法の下の平等とは、

 

あくまでも国家による不平等取扱いの禁止・法律上の均一取扱いの要求という形式的平等を内容とする(通説)

「法の下の平等」, Wikipedia, 2021年6月15日閲覧。*8

 

とのことなので、つまり(e)や(f)に関して、昔のアメリカの州法で「黒人はマークがついてる席しか所だけ」とか定めたのよろしく政府・国家・法律がやってはいけないという話であって、こちらに関しては特段の影響はないと考えられるでしょう。

 

つまり、上記の解釈に誤解や非通説的なものが混じっていない限り、「ワールドの使用の制限」に関しては、人種差別撤廃条約上の「人権及び基本的自由の享受の妨げ」に該当していると考えられ、「差別」の定義の一部を満たします。

ただし、先ほども見た通り、その前提である「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づく」の部分は使用言語による区分に対応していなかったので、全体としては抵触していないと考えられるでしょう。

 

「目的」と「効果」

ただし、気になるのは先の「目的」だけでなく、「効果」も抵触する恐れを持つという所です。

例えば、もしも何処かのワールドが話題となって、最終的に上記に少しでも抵触するような行動等を誘発してしまった時は、多分あっさり抵触してしまうことになります。

そういえば、ここ最近Twitterでは何か炎上騒ぎが起きてましたが、そこで醸された発言の中には…。

 

つまり、JPHub様を擁護しようと論陣を張ること自体は、この定義上では、ただちに「差別」を助長する行為ではなく問題のない行為ですが、その過程で誤って、例えば「日本語」から「日本人」に話がシフトしたり、上記に抵触するような頓珍漢な議論を繰り広げると、逆に「効果」の項目に抵触して「差別」に該当することになってしまいます。*9

 

まずは落ち着き、論理的に考えることが肝要だと思われます。

感情に任せて思ったことをタイムラインに叩きつけるのは、きっと悪手です。

  

人種差別撤廃条約に関する小括

以上から、人種差別撤廃条約における差別とは

「過去の世代におけるものを含む、生物学的特徴や、言語・宗教・慣習などの文化的諸特徴を有する出自によって、区別・排除・制限・優先を行うことで、特定少数の人を対象にする純粋に私的な個人の自由の範囲外で、人権とか基本的自由の認識・享受・行使を害したり妨げる、目的や効果のあること」

と、言えそうです。

 

つまり例えば、もしも「外国人」そのものの「ワールドの利用の制限」を「目的」としている場合は完全にアウトで、多分炎上した原因の一つもここが目的だと思われたのが影響してると思うのですが、あくまで「非日本語話者」がターゲットだった場合は、これは「人種差別撤廃条約」上の定義に現時点での使用言語による区分が含まれないがために、ギリギリでセーフとなりそうです。

 

一方、ギリギリセーフと言っても、この制限が他の差別に抵触する行為を誘発してしまった場合は、法的に指すところの「差別」となると思われます

また、このギリギリな状態が果たして道義的に良いのかどうかは、道徳論的な話なので今回の議論とは別の問題です。

 

国際連合の定義

さて、人種差別撤廃条約が果てしなく中途半端に終わってしまったところで、かつて国際連合が、ウェブサイトで子供向けに説明していた定義を見てみましょう。

 

人間も多くの点で異なります。これらの違いのいくつかは、肌の色、髪の質感、性別などの物理的なものです。言語、習慣、信念などの他の違いが学習されます。
これらの類似点と相違点は、人々が自分自身を説明または識別するために使用する一般的なカテゴリを説明する用語である社会集団の基礎です。

(中略)

差別とは、特定の社会集団に所属しているために人々を不公平に扱う行為です。差別的な行動にはさまざまな形態がありますが、それらはすべて何らかの形の排除または拒絶を伴います。

「Understanding Discrimination」, 国際連合 2014年6月1日時点でのアーカイブを、2021年6月12日に閲覧。Google翻訳を利用しつつ、著者が翻訳)

 

こちらは滅茶苦茶単純明快。先のように考え込む必要はゼロです。

特定の、「言語」等で識別される社会集団に所属する人を不公平に扱った場合は「差別」に該当します。つまり、非日本語話者がワールドを使用できないように「拒絶」する行為は「差別」に該当します。

 

ただし、これは別段法律とかでは無いので、この定義上の差別を行ったところでこちらには法的な問題等はありません。

(法律の専門家ではないので絶対的に他の条約や法令に反しないとは言えませんが、日本は差別に対する法整備が薄いので、目立つものは人権三法程度しか存在しません。)

 

そのため、問われる問題は、意図してもたらされたか否かに関わらず存在する現状の結果を修正するか否かに、道義的責任が生じるか否かになることでしょう。

この先は道徳論や責任論の問題で、今回扱う「差別とは何か」というテーマとは整合しません。

 

 

結論

ということで、差別に関する法的な定義とか国際的な定義とかを見てきたわけですが、ものによって

「過去の世代におけるものを含む、生物学的特徴や、言語・宗教・慣習などの文化的諸特徴を有する出自によって、区別・排除・制限・優先を行うことで、特定少数の人を対象にする純粋に私的な個人の自由の範囲外で、人権とか基本的自由の認識・享受・行使を害したり妨げる、目的や効果のあること」とか、

「特定の、肌の色・髪の質感・性別などの物理的な特性や、言語・習慣・信念などの違いでカテゴライズされる社会集団に所属しているために、人々を不公平に扱う行為」

などの、少し違った定義が存在するということになりました。

 

なので、例えばJPHub様に関する話なら、法的な方面から見るとギリギリセーフのところを走っていて、周りの対応次第では抵触してしまう可能性が大きく、意見表明の際は慎重にならねばならないということが分かりました。

一方で、国際連合の定義においては残念ながら差別の定義に当てはまってしまっていて、「差別」であるとの批判自体には、一定の根拠があることも分かりました。ただし、是正に関しては、道義的な観点でどう扱われるかや、社会的責任が所在するかという別の問題であることも分かりました。

 

 

補論

JPHub様の件に関して、上記を応用して、関連するいくつかの気になる点に関して考えてみたいと思います。

①作者様はレイシストなのか?

正直、作者様をレイシストと叩くのは、行き過ぎていると思います。

レイシストとは「人種差別『主義』者」のことですが、あくまで作者様の意図は「外国人の排斥」等ではなく「言語差でユーザー間の意思疎通等が取れず、どうにもならない現状」への対応だと思われるので、レイシストでは無いと思います。直接の知り合いじゃないので、あくまで作者様の意図は仮の話に過ぎませんが。

 

また、上記を踏まえるなら、今回の件を見ていて作者様に人格的非難が浴びせられるのは非常に間違ったことだと思います。

そもそも人間に過ちを犯しているからと他者の人格を攻撃する権利があるのかは別として、「御本人による差別的な意図」が無いならば、人格の非難という方法には、意味も正義も無いと思います。

 

あと、ちなみに、根拠が間違っている場合は当然として、たとえ内容が客観的に正しかったとしても、非難の度が過ぎる場合や幾つかの要件に該当する場合は、誹謗中傷の法的要件を満たすことがあります。

詳しくは「誹謗中傷」で検索してください。

 

Webサービスが言語でプレイヤーを分けることは当たり前で問題ないのはそうだけど、その話は今回の問題と符合していますか?

少し話が違う気がします。

というのも、大抵のサービスでは「どの言語を使用するか」を、そのレベルに自由に選択する権利が我々にあるからです。

 

皆さんも多分、TwitterとかWindowsの言語で日本語を自主的に選択してますし、一方で、もし英語を使いたければ、たとえどんなに英語が下手でも英語に切り替えられるし、知らなくても中国語が良いなら中国語にすることもできるわけです。

また、サービス自体に利用できる言語が英語しか存在しないなら、どんなレベルでも、しぶしぶ英語を自主的に使うわけです。VRChatのUIみたいに。

 

だから、例えばクエスト日本集会場様などが、日本語で全てが構成されて、日本語が主流になっていても何ら問題が無いことの理由としては、見出しの主張の通りだと思います。ユーザーは自主的に日本語の環境を選択しているのです。

 

そもそも、クエ集様は、特段の「日本語話者以外を『制限・排斥』する」目的があると皆に思われず、かつてHot Worldに載った時に外国の人が押し寄せて大混乱に陥った事件から考えると、そのような効果を発揮することもありませんでした。なので、実際に差別として炎上したりすることも無かったのではないかと思われます。

(目的があったかは作者様の意図次第ですが、普通に考えれば上記の通りでしょうから、そもそも今回の議論の定義上でも「差別」では無いでしょう。)

まさしく現時点では、自然発生的な区分け・棲み分けの成功例のように思われます。

 

一方で、「ここでは日本語を使ってください」というのは、特定の言語の使用を要求しています。ほんの少しニュアンスが違う気もしますが、でも、これは結果として「サービスが英語だけで提供されている」環境とあまり変わらない話なので、あまり問題のようには思われません。

しかし、「日本語が出来ないなら入場させない」となると、一定のレベルに達しない人を明確に「制限」し「排除」してるという点は、言語の選択的区分け以上の問題のように思われます

 

例えば、下手くそな英語を選択的に使用してVRChatを利用しているボクらに対して運営が、「TOEIC600点レベル未満はVRChatを利用しないようにログインテスト作ったから」と言っている状態に近い気がします。

(ちなみに日本語検定N3はTOEIC400点レベル。N4は300点レベル。ただ、表音文字だけを使ってる人々が3種類も新しい文字を覚えるのは、僕らが梵字とタイ文字とチュノムとを覚えさせられるレベルで大変。)

 

ちなみに、これは地域による区分け・制限とはまた、異なる話です。

配信サービス等でアクセス制限がかけられていることには技術的制約や国ごとの法律の違いなどの影響も大きく、一概に同様に論じることは出来ません。

 

人種差別撤廃条約には実は保護のための優遇に関する例外規定もありますが?

実は、色々な例外規定が存在します。

ただし読めば分かる通り、「人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため」にカウンターとして許容されているだけで、いちソフトウェア内での言語話者を保護できるような物とは、とても思えません。

 

 

感想

ところで、最後に強く言っておきたいのですが、こういう物を書くと「お前はそこまでしてJPHubを非難したいのか」とか「JPHubをもっとしっかり非難しろ」とか正義感の強い人たちに言われそうで、正直公開前からナーバスになってます。

 

なのですが、前書きの始まりの通りボクがこの記事を書いた理由は「差別って何?」の統一した前提を形成するための、一つの考えを示すためでした。あくまで可能な限り、その文脈で書いたうえで、JPHub様の件は例として挙げています。

 

したがって、善悪論的な問題・道義的責任の有無に関しては、一応、あまり触れることがないように話を進めたつもりです。

そもそも、改善法や根拠を示さずただただ責め立てる「非難」と、論理的に問題が存在することを指摘する「批判」は、全く違う問題です。

 

(ちなみに、専門家の方が出てきて「お前はなっとらん!素人が余計なことしやがって!」とボコボコにされるのも怖いですが、これを契機に専門家の方がより正しくてより分かりやすい記事を書いてくれたりするなら目的は達成されるので、その可能性については諦めてます。)

  

では、結局著者個人はJPHub様に関していったいどんなスタンスなのかという話になりますが、正直微妙な感じです。

 

確かに、本人たちが日本語で話していて、口をついて言葉は出てくるけど文法や漢字は苦手な、日本人の嫌な人何かに比べてよほど楽しく過ごせるようなフレンドたちのことを思い浮かべると、特に胸が痛む部分が大きいです。

そういう意味では、個人的にはJPHub様を使う気が正直起らないことを含めて、批判的なのかもしれません。

 

ただ、一方で、このVRChatの世界で外国の人のたまり場と化した日本語話者のたまり場「だった」場所のことを思い、知らずに初心者としてそういう所へ行って激しく混乱した過去等をふまえると、個人的にも思うことが色々とあって、正直この件に関して「差別だ!是正しろ!」と、声を上げて非難する気も起きないというのも現実です。

 

この文章とて「定義の定まらない用語を使ってタイムラインで殴り合うのをやめて欲しい」という思いや、普通のお気持ち表明の範囲をあまりに逸脱していそうな、あからさまな本物の「排外主義」をタイムラインで見たことへのショック、「結局『差別』って何?」という疑問から書いたもので、JPHub様に現状の是正を要求しようとか、そういう話ではありません。

 

そういう意味では、比較的ニュートラルかもしれません。正義非正義や、敵味方で全てを区分けする人には非常に気に食わない存在かもしれませんが。

 

ところで13000字も書くと、とても疲れますね。

御存じの方は御存じの通りゴールデンウィークも土日も無くなりがちな生活をしてるので、この時間をVRChatに使えばどれだけ楽しく遊べたか考えると、正直失敗した気がしなくもないです。

たぶん大いに意義はあったけど、ダイナミックお気持ち表明のために力を注ぎ過ぎました。

 

 

参考文献

 

*1:11月21日追記。前も読めば分かるようになっていたけど、念のため。

*2:2021年11月22日現在、サービス終了済み

*3:「人種差別撤廃条約」, 外務省  2021年6月12日閲覧。

*4:「『憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)』に関する基礎的資料」p10, 衆議院 2021年6月12日閲覧。

*5:「国際法上の言語権概念の日本国内法における受容について」, 杉本篤史, 社会言語科学会 第42回大会 Web発表論文集

*6:「幸福追求権の射程 ―憲法13条を根拠とする「新しい人権」の資格認定基準―」, 植田徹也, 四天王寺大学紀要第56号, pp43-52

*7:【出資法の『不特定かつ多数の者』の解釈論】 | 企業法務 | 東京・埼玉の理系弁護士

*8:注記:本来は著者がはっきりしないことや、正確性の観点からWikipediaよりの引用は好ましくないが、この部分に関しては2冊の本を出典としている旨が示されているため、特別に用いた

*9:11月21日追記。ここに関しては、参考文献の梁英聖氏の記事の定義に沿う形でこのように書いていますが、法学的な「効果」の解釈が、果たしてこれで正しいのかという疑念が読者から呈されています。